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Ⅰ.緒言
私は1960年以来慢性副鼻腔炎の多洞手術の際上顎洞病的粘膜を利用するSinoplastikに就て諸種の報告をし,この方法が従来の粘膜を完全に除去する手術より優れている点を強調して来た。今回はこの方法で手術したものの術後の鼻汁の消失状態について報告する。慢性副鼻腔炎は手術すれば直ちにすべての症状が軽快治癒するかというに必ずしもそうは行かないのである。頭痛,鼻閉塞等は比較的容易に軽快し得るが鼻汁は相当長期間の治療後初めて消失するものが多いのである。この間感冒罹患により種々雑多な複雑な経過を示すものでありこれにさらに術創の治癒過程における変化が加わり時としては再び慢性症状を示すものも出て来るのである。何分鼻副鼻腔粘膜は感冒に対して極めて鋭敏に反応するものでありまた副鼻腔は中耳根治手術創のごとく術後術創を直視下に処置出来ない部位でありかつ外界と連絡しているものであつて常に感染の危険にさらされているものである。したがつて如何に完全な手術が行なわれた場合でもその術後治療にはなはだ困難を感ずる場合にしばしば遭遇するのである。このような場合に術後の鼻汁の消長についての種々の症例の詳しい経過を熟知していないと経過が少し長びいたりすると手術が不完全であつたかと考え悩んだり,あるいは何等かの原因による慢性症状の再発かと考えたりして無用の再手術を行なつたり,あるいは患者に治るのかと質問されて適確な応答が出来なかつたりすることになり真面目な人程苦悩することになる。勿論手術はよく熟練し完全な手術をするようにすることは必要であり,また術創が再び排泄障害を生じてそのために再び慢性化することのないようにSinoplastikを行なうようにする心がけも必要であるが,これのみではなおすべての症例において短期間に鼻汁迄を完全に消失出来ないことが慢性副鼻腔炎治療の困難な点である。したがつて術後鼻汁の消長について多数例の詳細な調査は手術後の予後判定とか術後管理の方法および期間とかあるいは術創治癒の判定等に極めて必要なことである。しかし従来この種の調査報告はほとんど見られない。
私は前述の観点より上顎洞粘膜を利用するSinoplastikを行なつた症例の術後鼻汁の消長について18ヵ月間について観察したので報告する。勿論さらに長期にわたつて観察しているものも多いが発表上混乱するので一応18ヵ月に止めた。
Following Akaike's sinoplastic operation for establishment of unhindered drainage passageway in 38 cases, the patients were observed for the period of 18 months on their state of nasal discharge. In 17 cases (44%) the nasal discharge disappeared within 6 months after the operation and in 16 cases (42.1%) it disappeared within 1 year. In 5 cases the discharge continued for more than 1 year in duration but, in 2 cases of which the recovery was seen at the end of 18 months while the remaining 3 required over 2 years. From these experiences the author concluded that, as long as an unhindered passageway is established by sinoplastic operation, there is a possibilty of the sinusitis being recovered even though 2 or 3 years may be required for the process.
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