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Ⅰ.はじめに
ことばを使つて意志を伝達し合うということは,人間の生活に欠かすことの出来ない手段であり,また歌を歌うこともわれわれの生活のごく自然な必要部分である。しかもわれわれはこの社会に生れ出て,心身が発育すると共に,全く自然にその手段を習い覚え,それを使いこなし,日常生活において,自分が出す声,語音の一つ一つにはほとんど意識的な注意をはらわないほどに慣れ切つているのが普通である。一方,声を出し,ことばを発音すること,また人の声やことばを聞きわけ,理解することが,如何にこみいつた働きであり,更に,人の声,ことばが如何に多彩な物理的,音響的性質を持つものであるかは,改めて述べるまでもない。
これらの複雑な機構のどこかに異常があれば,声またはことばの障害として,場合によつては日常の生活に重要な支障を生ずるようになる。われわれ耳鼻咽喉科医は,声やことばに関係する器官を扱つているために,いわゆる音声言語障害を訴える患者に診療を求められる機会が多い。ところが音声言語機能は,前述のように非常に複雑多岐な現象であり,さらに,社会習慣,環境という背景を伴つているので,往々にして耳鼻咽喉科領域では扱いかね,もてあます場合があることも事実である。特に日常の耳鼻咽喉科一般外来においては,その感が強いことは,多くの臨床家が認めるところであろう。
著者が所属する東京大学耳鼻咽喉科には古くから一般外来の他に音声言語障害科があり,また数年前に,小児の難聴,言語発達遅滞を対象とした専門外来が設立され,一般外来で問題のある症例は,これらの専門外来で扱われている。最近は,多くの大学病院,施設に,音声言語に関するspeech clinicが作られており,更に,医学,心理学,教育学等の協同によるteam approachの必要性が唱えられている。このようなspecial clinicの発展は,音声言語障害の適正な診断,治療に必要であり,今後の進歩が期待されるのであるが,それによつて,一般耳鼻咽喉科外来から,音声言語の問題が無くなるわけではない。
In the specialty of otolaryngology, because the diseases are concerned with the organs of oral communication, there are many problems that must deal with disturbances of the speech and voice. For giving a satisfactory answers to the clinical problems presented by patients, various diagnostic methods, which may be practically carried out in the outpatient clinic, are classified and described.
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