談話室
効くか効かぬか
上州子
pp.498
発行日 1965年5月20日
Published Date 1965/5/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1492203440
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新薬の試用経験の報告が多載されて居る。未知の薬を使つて,その中から我々に利するものを引出して下さろうとの御気持は有難い。だが効果の判定はきびしくして頂かぬと使用経験のない者に迷を生じさせる結果に成りはせぬだろうか。筆者も医局在籍中に製薬会社から数本を依頼されたが1本もまとめられなかつたことを覚えている。理由は判定基準がないからである。つまり自然治癒の問題が明かで無く,薬剤の効果についても偶然性がどうしても否定出来なかつたからである。病気が発生した,そして治癒した,その間に薬が与えられていたと云う事が事実であつたとしても,だからと云つて薬によつて治癒したと考え切れない。その薬をやらなくても治癒したかもしれない,更に治癒とは何かと云う事まで考えると効く効かないの判定は容易につくとは思わない。
最近の本誌に掲載された論文からを二,三拾つてみると,或る薬を神経性難聴,耳鳴に使用し聴力,耳鳴夫々の好転例数が報告され使用薬剤は有効であつたとなつている。此の論文は有名な大学から寄せられたもので,著者も名高い方であるから比較基準を省略されたのも何か考えがあつての事と思うが,私がたまたまその人を知って居たから善意的に解釈するのであつて一般的には必ずしも親切な論文とは云えない。緒言
にその薬剤が有効である事は数多くの報告があるとしてあるので参考文献を自分で読んでみたが,各文献とも何をもつて効果ありとしたのか解せなかつたし,有効率も従来難聴耳鳴の有効剤として発表されているものと有意の差はなかつた。耳鳴難聴はどんな薬を使つてもこれ程効くのであろうか?全は即ち無であろうか? ふとこんな感じがした。
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