特集 出血と止血
Ⅱ.各論
3.特殊疾患
d.自律神経と出血
長谷川 高敏
1
1大阪大学
pp.354-359
発行日 1961年4月20日
Published Date 1961/4/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1492202661
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I.緒言
視床,脳脚,灰白隆起,頸髄などを破壊または焼灼して自律神経中枢を操作すると胃に瀰漫性出血の起ることが既に19世紀の中頃Schiff,Brown-Sequard. Epistein等により報告されている。又1911年Ricker1)は,刺激の種類を問わず自律神経の強刺激が滲透性の大出血を起すことを記述している。しかし,この種の出血について一般の注目を喚起したのはReilly2),Laborit3)などのフランス学派による比較的近年の業績である。これは自律神経刺激の強大な場合所謂自律神経擾乱に基く内部環境変動の結果起される。この際先ず細動脈の収縮痙攣に端を発して毛細血管の貧血,酸素欠乏から血管壁の抵抗減弱,透過性亢進が起り,出血は透過性亢進による血球漏出として現れる。わが耳鼻咽喉科領域に於ては鈴木・飯田・深沢5),井上6),斎藤7)氏等が動物実験に於て口蓋,口唇,頬部に注入したクロトン油に基因するショックにより自律神経過剰刺激のもとに出血の起ることを観察している。
この出血は要するに自律神経過剰刺激による血管機能障害に基因した疾患の一症候であるが,夙にEduard Müller4)は,この種疾患に注目してAngioneuroseと名づけその臨床的観察を行つている。このAngioneuroseに対しては7%重曹水静注の有効なことを私共は屡々報告し,特発性鼻出血のようなこの種出血に用うべきことを述べた。ここに従来観察したこの種出血に関する実験と臨床的経験を纒めて記し,御参考に資したい。
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