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診断の困難な鼻腔腫瘍2例
竹中 文一郎
1
,
水越 重雄
1
1京都府立医科大学耳鼻咽喉科教室
pp.792-795
発行日 1957年10月20日
Published Date 1957/10/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1492201868
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鼻膣及び副鼻膣の腫瘍の場合患者の訴える症状には鼻出血,鼻閉,鼻漏,顔面の腫瘍及び神経痛様疼痛等が挙げられる。鼻腔,副鼻腔に腫瘍があつて鼻漏が出血性であれば先ず悪性腫瘍に疑がおかれる事は常識となつているが,出血を伴うことが稀と考えられるような良性腫瘍でも炎症等の因子が加わると思わぬ多量の出血を来す事がある。又一方鼻出血の量的な関係は腫瘍の種類,発生部位,進展方向等によつても可成なり異なる様に思われる。例えば悪性腫瘍でも肉腫には出血が多いが,癌では発育の遅い癌や細胞文化の高い程出血が少いと云われている。又同じ癌でも上顎癌の場合,腫瘍が上顎篩骨蜂窠等,広い範囲に拡つていても鼻腔に現れる事が遅い場合は鼻出血は少い。
鼻閉塞について問題になるのはそれが一側性であるか,両側性であるかである。元来鼻閉は鼻腔通路の広狭によつて決るものであるから,鼻腔に存在する腫瘍の大小が先ず問題となる。一般的に総鼻道下部の通気状態が良好であれば鼻閉感は少い。従つて中鼻道に限局する様な腫瘍は鼻閉が比較的少いが,下鼻介等下鼻道部に発生した腫瘍では鼻閉を訴よる時期も早く,程度も強い様に思われる。腫瘍が徐々に発育する様な場合で殊に一側性の時は鼻閉感は少い。一例を示すと篩骨蜂窠から眼球にまで癌性浸潤があり,眼球の突出,神経痛様疼痛があるにも拘らず,鼻腔では腫瘍が中鼻道部に限局している為鼻出血も少く,鼻閉感も少く,早期発見早期治療が出来なくなつた例もある。
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