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緒言
破傷風が耳鼻咽候科領域で問題になるのは比較的稀である。之は一般に破傷風は全身症状を呈することが多いので,他科の領域に入るためであろう。文献によると1920年Seligmannは腐敗性耳漏を有する7歳の男児に発生した破傷風例を報告して居り,其の原因は外耳道の木片異物であつたと記載し,自から耳性破傷風の最初の例と称している。しかし,これより先1913年Nicollは破傷風症状を併つた乳突炎を,又其の後Zaviskaは再発性中耳炎に対する乳突手術に続発した例を報告している。其の他Meseckは膿汁で湿潤した外耳道綿球から,又Klestadtは中耳腔遊離骨片から招来したと思われる例を述べている。しかし一方,Clausは之等が果して真に中耳化膿症を原発部位としているかどうか疑問であるとしている。Borriesの総括的記載によつて,之等耳疾患と関係のある所謂耳性破傷風は外傷,表皮脱落及び中耳化膿症の二次的感染として発生し,牙関緊急,痙笑及び嚥下困難を主症状として現われ全身症状を欠除することが多いため診断にあたり,屡々他疾患と混同し易い事を警告している。本邦では所謂頭部破傷風に関する報告は時々見られるが,耳疾患を原発部位としている耳性破傷風に関する報告は極めて少く,僅かに梶川氏が外耳道異物より発生した例を報告している程度である。
最近私共は慢性中耳炎の経過中に明らか外耳道から感染したと思われる。破傷風の1例に遭遇し,幸に治癒し得たので,茲に経験を報告し文献に追加すると同時に大方諸先輩の後示教を仰ぐ次第である。
Miura and Kamata report a case of tetanus infection in a farmer's wife aged 47 apparently otitic in origin. The patient while gathering some pine branches out in the field remembe-red that she was injured in the ear. She suf-fered ear discharge and soon thereafter the symptoms of lock-jaw. By administration of antitetanus serum the patient made a full re-covery.
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