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聴中樞化学より見たストレプトマイシン難聴
中村 文雄
1
,
水越 治
1
1京都府立医科大学耳鼻咽喉科教室
pp.69-74
発行日 1956年2月20日
Published Date 1956/2/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1492201490
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まえおき ストレプトマイシン(S.M)による聴覚障碍が内耳及び聴中枢神経路の何れに於て第1段階的の病変が現われるかは猶検討の余地を残して居る。併し乍ら聴中枢路の神経組織がいずれにしてもS.Mにより高度の変性を蒙る事は疑問の余地のない所であろう。従来のこの種の研究はあまりにも組織形態学的に傾きすぎて居た。しかし細胞化学の進歩して居る今日,形態学のみに頼り解決を求める事は到底吾々に満足を与えない。従つてS.M難聴に於いても我々にとつては莫然とした知識を把握するにすぎず又治療の根本原則を確立する事も困難である。疾病の藥剤による治療を考えるにはその部の物質代謝の変調を重視せねばならぬ。之の意味で吾々の教室で此数年の間に行つて来た聴中枢化学の知識からS.M難聴を分析し聴中枢の受けて居る病変に就いて検討を試みたい。
内耳毛細胞に於て電気的な型にかえられた音響刺戟は神経線維を伝わり中枢に達する。Neuronに刺戟の伝達が行われると,それを構成する蛋白等の構造に特定の変化消耗を生ずる。このNeuronに於ける蛋白の消失は神経細胞により補われねばならぬ。此処に於いて刺戟の伝達からはなれた神経細胞の機能が発揮されることになる。即ち神経細胞の核蛋白がこの働きのために動員される。消費された蛋白の補給のためにはリボ核酸(R.N.A.)がこゝでも重要な役割を演じて居る。通常有糸分裂を営まぬ神経細胞に於いては核に存在するデスオキシリボ核酸(D.N.A.)は他に比し極めて微量であり,その意義は少い。之のR.N.Aは古典的な表現によるニツスル小体に略一致して居る。又R.N.A代謝には広い範囲の燐代謝等が平行的な関係を有して居る。
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