- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
扁桃腺の手術にはいつも輕いスリルみたいな感情が付き纒つていて,それが又この手術の面白さにも感ぜらるのは私のみではないかと思う。斯うした感情は過去に於ける出血の不愉快な經驗や,讀んだり聽いたりしてた不幸な例の印象が強く頭に滲み込んでいるためであると思う。私は元來スリル的冐險味のある手術は出來ない性分であるから,從來の私の見學した手術や,讀んだ手術法からは不安のない手術の基準になるものを掬み取ることができなかつた。從つて私は何とかして,扁桃腺の如何に拘らず,出來不出來のない安全で確實な方法を得たいものと考えた結果,一つの方針を決めることが出來,それを嘗つて「扁桃腺摘出術の基準に就て」1)の題目の下に發表した。元來何れの術者の行つている術式も安全確實を希んで,夫々優れた成績を擧げているのであるから,敢て再び私の術式を紹介しようとは思わないが,常に不安なく手術を進めて行くためには,いつも目標にして行ける或る基準を知つつておくことが必要であると思う。そしてその目標は私の嘗つて報告したように,扁桃腺のKapselにあると信するので再び茲にこの問題に觸れてみたいと思うのである。
扁桃腺の摘出術の要點はKapselを露出し,これを目標にして扁桃腺を分離してゆくことであるから,この手術々式の根本的差異はこのKapselに對する解釋とその取扱法の差異にかゝつており,扁桃腺手術に關する最も重要なる問題であると思う。然るにこのKapselに就ての各術者の解釋は必ずしも一定していない。茲に扁桃腺摘出術を修練する上に迷いの原因をなすものが存在しているものと思う。私は今Kapselに對する種々の解釋に就て述べる前に,組織學的に類似する淋巴腺のKapselに就て考えてみることゝする。
Copyright © 1954, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.