- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
所謂化学療法の発達普及につれて,急性中耳炎に罹患する機会が減少し,罹患しても,その経過は軽く短くなり,側頭骨に大手術を加えなければならないような,急性乳突起炎や頭蓋内合併症に進展することが少くなつた.しかしながら,中耳粘膜素質の異常や先天的遺傳的体質異常のある個体に起りやすいと考えられる中耳炎では,初発時の急性症状も発現の時期もはつきりせず,氣付いた時には治りにくい慢性中耳炎の状態になつていたり,幼小兒によくみられるように,急性炎症が適切な治療によつてその都度治りながら,繰り返えされることによつて,遂には慢性になる場合がある.或は,猩紅熱,結核其他一連の全身疾患のために,個体素因に関係なく全身衰弱に陥つて,抵抗の減弱した患者に合併した重症中耳炎では,しばしば高度の粘膜病変や骨疽を伴い,化学療法其他の治療によつて幸に化膿の進展が止つても,局所の恢復力が失われ,慢性化してしまうこともある.以上のような原因による慢性中耳炎は止むを得ないとしても,化学療法が更に進歩することによつて,從來さけられなかつた急性中耳炎の慢性化がなくなるだけでも,諸君或は次の世代の慢性中耳炎数は極めて少くなるだろう.しかしそれは,理想的保健衞生管理が個々の一生を通じて完遂されると云う前提條件があつての話で,現実的には期待されないかも知れない.現在では,過去から引き継がれている慢性中耳炎が加つて,比較的には却つて増加し,慢性副鼻腔炎と並んで,学会をあげての強力な研究が要請されている.それはそれとして,現在吾々の前に治療を求めて立つ慢性中耳炎の患者をどうするかが,緊急当面の問題だから,今日は最も治りにくい上鼓室化膿(慢性乳突炎)をとりあげ,その診断と治療について述べてみる.
Copyright © 1950, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.