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一般医家にとつて蕁麻疹はアレルギー性疾患とされているが,皮膚科医にとつては複雑な病因の皮膚反応で,アレルギー性因子の実証されることは稀である。Calnan教授がWatson Smith講演で演説した処によると,次のようである。湿疹を遅延型過敏性の表現と解釈するのは,実証はないが,今の処便宜である。同様に蕁麻疹を即時型過敏性の表現と見做すのは,本症の大部分がアレルギー性ではないと信ずるにも拘らず,今の処便利である。湿疹と蕁麻疹の発生は,免疫学的機序に関係しないことが多いであろう。両疾患は非特異的であり,しかもアレルギー性のものと非アレルギー性のものとは組織学的に差別し得ない。それらは完全に可逆性を示すが,習慣性を獲得してそれ自体で永続する。この状態は多くの刺激に対する反応域が低下したもので,湿疹状態および蕁麻疹状態といわれているものである。以上がCalnanの講演の一部であるが,実際に蕁麻疹の形態と分布によつて原因を捕捉するのは,コリン作動性蕁麻疹以外は困難である。原因の診断に対しては病歴が,もし本症がアレルギー性であるという偏見を捨てれば,甚だ重要である。先ず最初の発疹が起つたときの状況(薬剤,食物,情緒,その他)から質問を始め,次いでその後の発疹毎の状況を尋ねる。第1回とその後とでは発疹に関する因子の異ることのあるのを知つておく必要がある。発疹が長く続く場合には患者に日記をつけさせる。ついで医師は合併症を尋ねる。呼吸器または消化器の合併症はアレルギー性原因を示すことがある。毎日発疹を生ずる場合には、アレルギー性とは考えられない。検査によつてアレルギー性と非アレルギー性とを鑑別することは不可能である。好酸球増多はアレルギー性に分があるが,確かではない。アレルゲンによる皮膚反応は実地的価値なく,大部分の皮膚医およびアレルギー医は蕁麻疹に関しては本法を捨て去つた。アレルギー性原因の場合も病歴が重要である。慢性蕁麻疹の大部分においてはアレルギーでないばかりか,どんな詳細な検査によるも原因らしいものが見付からない。少数例ではあるが,疲労感,微熱,違和感等を伴ない,蕁麻疹が新生物,細網症,紅斑性狼瘡,リウマチ熱など重篤な全身病の表現であることがある。明らかな原因の見付からぬ慢性蕁麻疹に対し,十分検査を行なうのはよいが,アレルゲン追求を余り長く行なうべきではない。それより情緒の緊張,疲労感など非特異的因子に注意を払うべぎである。不安感,欲求不満等の除去で治癒する患者も多い。抗ヒスタミン剤によつてそれらの軽快することもあるが,本剤の種類による効力の差が個人で甚だ異ることは周知の通りである。(Leading Articles:Problem of Urticaria,Brit.Med.J.,2;643,1964)
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