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I.緒 言
癌の治療には手術的療法,放射線照射,化学療法剤並びに抗生物質投与によるものがあつて,近時放射線治療として同位原素の出現により長足の進歩を遂げつつあるといえる。各科における癌治療の原則は,なお手術的切除をもつて第一とされている。これは初期の癌,即ち転移の未だ見られざるものに対して,手術的治療こそは癌を根治せしめ得る最良の療法であると考え,諸家の認める処である。放射線療法としては古来レントゲン深部治療法,近接照射療法,超軟レ線療法,ラジウム治療が盛んに用いられているが,なかでもレントゲン深部治療法が最も多く応用されるもので,これによりかなりの効果がみられた症例も少なくない。処がレ線の性状をかえりみると,その病巣部に対する効果のみならず,健康組織への障害が,その治療上に悪影響を及ぼすことなどから,放射線専門医のみならず各科領域の医師の間において,姑息的治療の一方法として末期の患者の生命延長の一策として用いるという印象が強いように思われる。このことは皮膚癌についても同じことがいえるようで,これらも放射線治療により根治し得る場合がかなりあり,勿論対象とされる症例範囲は手術的に根治療法をする場合と同じく臨床進度,組織学的性状その他種々の条件によつて制約され,Chaoul氏の唱える適応症に照射条件などを考慮して実施すれば,好結果をもたらすものと確信する。
処で最近,私は顔面に発生した皮膚癌の2症例に遭遇し,これらは何れも数年間専門的に放射線治療,その他有効と思われる様々の療法を試みて好転せず,時をみて外科的切除術をすすめたにもかかわらず,患者は顔貌の醜形を嫌い,姑息的療法を希望して来院した。ためにこれら症例について上述したことなどを惑案して,最終的根治療法としてレントゲンの深部照射治療を再検討し,好結果を得ることを期待して実施し,周囲組織への障害を残さず完治せしめた症例を経験したので報告する。
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