- 有料閲覧
- 文献概要
今回は術前・術後処置に関して,我々の病院とやり方の異つていた点について述べてみたいと思う。何といつても前立腺の手術が一番多かつたので,それを中心にその他の手術は特異的なことのみ附記する事にする。先ず代表的な術前のオーダーとして恥骨上前立腺剔除術の時の実際のオーダーは上のようです。
aのPermissionは手術承諾書にサインすることで,どんなに小さな手術でもこれなしには手術出来ない。bの剃毛は非常に広範囲に行われていた。SSEというのは石鹸水による高圧浣腸で,午前中の手術は前夜に,午後の手術には当日の午前中に行つていた。その他の手術でも同様である。食事は午前中の手術には夜半以後禁食禁水としていたが,午後からの手術では,朝食にコーヒー紅茶,ジェリーのようなものを与え,それ以後禁食禁水となつていた。術中輸血の用意に一応1000cc(1 unitは500cc)の血液がクロスマッチされていたが,実際に術中輸血を受けるのは15%位のものだつた。出血が500cc以内の場合には,血圧・脈搏が安定している限り輸血は行わなかつた。米国の病院はどこでも供血者の不足のため保存血の欠乏に困つていたが,マウント・サイナイは血液銀行が最初に出来た病院なので,血液を集める方法とPRがうまく行われていた。患者の入院と同時に家族の者から血液の提供を受けるようになつていた。Thru & thru irrigationというのは,尿道に留省したバルーン・カテーテルから洗浄液をイルリガートルから点滴式に流入し,cystostomy tube(マレコー氏カテーテル)から排液するという洗浄法のことを指し,術直後から直ぐ使用出来るように術前からオーダーしておく。使用する洗浄液は通常生食水が用いられていたが,蒸留水を使用する医者もいた。高血圧患者には後者が用いられていた。前者は前立腺床からの吸収を考えて蒸留水より生食の方が適当であるとし,後者は蒸留水の方が膀胱内やカテーテル内で凝血塊が出来難く,カテーテルが閉まることがないという利点をあげている。前投薬に使用されるDemerolはオピスタンとほぼ同様の合成麻薬で,硫アトと一緒に術前時間に筋注される。前立腺の手術では脊椎麻酔の禁忌症でない限り,脊椎麻酔が用いられるが,麻酔の如何に拘らず前投薬は同様だつた。1/150grは0.4mgで,65歳以上ではデメロールは50mgに減量していた。
Copyright © 1964, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.