海外見聞記・9
アメリカの医療費
中村 宏
1
1慶大泌尿器科
pp.418-419
発行日 1964年4月1日
Published Date 1964/4/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1491203762
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アメリカの医療は非常に高いのでうつかり病気にもなれないとか,急性虫垂炎になつたら,急いで飛行機で帰国して,日本で手術を受けた方が安上りだ等とよく冗談にいわれるが,確かにその通りだと思つた。あちらへ行つた当時は,アメリカのお医者さんは少こし患者さんから取り過ぎるのではないかと思つたが,帰国してみると日本の医療費は又桁はずれに安過ぎ,洋の東,西でかくも違うものかと感心したり,嘆いたりしたものだ。
アメリカの医療費の高さは,結局需要と供給の関係から来ているのではないかと思われた。つまり患者の数に比して,医者の相対数が少ないということで,患者側から見れば高い費用を払わなければ診てもらえないので,仕方なしに払うということになり,医者の立場からしてみると高い費用を患者に要求しても,それだけ払つて診察を受けに来る患者が後をたたないので,平気で高い費用を請求するということになるのだと思う。このことは専門科別による治療費についても同じようなことがいえる。アメリカでも内科・外科医は多く,泌尿器科専門医は非常に少なく,この需要と供給の点が,すぐに収入の差となつて現われてくる。例えばマウント・サイナイの超一流の外科医が,胃切開術をやつて1000ドル位という話しを聞いたが,泌尿器科で一番患者を持つているあるアテンディングらは,恥骨上式前立腺別除術で2000〜5000ドル請求していたという程の違いがあつた。こういつた収入の面では,稀少価値を問われて泌尿器科医は,神経外科医と共に最も恵まれた専門分野であり,その故に泌尿器科を専攻する人が年々殖えて来ているのも事実のようだつた。
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