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雀卵斑素質の遺伝機構
古庄 敏行
1
1熊本大学生物学教室
pp.275-276
発行日 1956年5月1日
Published Date 1956/5/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1491201672
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ソバカスは日光々線中の菫外線が色素増生の誘因となり,主として女性に多く,思春期頃より発生するが,其の素質は遺伝性である。
ソバカスの遺伝機構についてはMeirowsky(1926),Hammer(1936),其の他より優性遺伝と推定され,Simens(1923)は,単優性ではなく多因子遺伝と想定しておる。又Gates(1946)は劣性とみている。我が国では伊藤(1946)が,ソバカス,対側色素異常症,色素性乾皮症を一括して劣性致死因子を含む多因子遺伝と推断しておる。人間の種々の遺伝形質は,一般動植物のそれと異り,発現が不規則である。そのため,遺伝学的な,優性,劣性を決定することすら非常な困難で,劣性形質×劣性形質(両親共に劣性の場合)の子供に優性形質が現われるので,これを直ちに多因子説で片付けようとする向きがあるが,これは極めて危険な事である。如何なる遺伝子の働きも,その環境から独立にあるのではなく周辺の諸条件と相対的な動的な関係にあり,たゞその過程なり発現なりに対して遺伝子以外の諸条件のもつ役割が大であればある程,遺伝子の働きの結果が複雑になる。雀卵斑の素質があつても,それを誘因する環境がなければ一生その形質は発現されないわけである。遺伝様式の決定は,軽々に行わず慎重を期すべきである。人間の遺伝様式を分析するには少数の家系図のみで分析する事は不可能である。
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