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患部皮膚組織内に蟲體を證明した關東産雷魚生食に因る顎口蟲症の1例
川井 博
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1東京大學醫學部皮膚科教室
pp.240-243
発行日 1950年6月1日
Published Date 1950/6/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1491200358
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緒言
華中長江流域で日本人の罹患する者の少くなかつた所謂長江浮腫は,明治35年初めて之を記載した山田がQuinckの急性限局性皮膚浮腫とこれを同一症と看做して以來,その病理解釋に血管神經症説,内分泌異常説,アレルギー説等あり,殊に近年はこれを長江産淡水魚の生食に因る食餌性アレルギー現象とする思想が支配的であつた.然るに昭和20年駒屋,北村,小宮,近藤により長江浮腫の患部皮膚組織内に有棘顎口蟲Gnathos-toma spinigerum Owen,1836の仔蟲髄が發見され,且つ又長江地方産の雷魚Ophicephalusargus Cantorその他の淡水食用魚に同じ仔蟲の寄生が,上海の犬及び猫に於けるその成蟲の寄生と共に證明されるに及んで,長江浮腫は即ち皮膚顎口蟲症なることが判明するに至つた.然るに之と前後して本邦に於ても佐賀竝びに福岡縣下に雷魚生食後長江浮腫様症状を生ずる事例が集團的に現われ,その地の雷魚,但し華中の夫と同種のOphicephalus argusに是亦有棘顎口蟲仔蟲の寄生する事實が楊,次いで操一服部に依つて確認され,本症は新に國内疾患として意味を持つようになつた.併し東京を中心とする關東地方では時に雷魚を生食して同じ症状を呈し,吾々の許に受診する者なくはないが寧ろ稀で,昭和21年以來今日迄4,5例を數えるに過ぎない.
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