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1.はじめに
わが国におけるくも膜下出血の年間発症率は,対10万人当たり約20人と考えられている。ところが,永年脳卒中疫学のフィールドワークが行われ,くも膜下出血の診断が髄液診・CTあるいは剖検により正確に行われている久山町では,96.1/10万人とその約5倍であり,高齢になるほど直線的に増加していた.また,くも膜下出血によるsudden death例の半数が,他の病因と誤診されていた27).このことは,われわれの診断しているくも膜下出血例は,発作後のsudden deathや急性期死亡を免れた氷山の一角であり,pre-hospital careが充実し,かつ高齢化社会となる将来,われわれが加療すべき重症くも膜下出血例は増加する可能性を意味する.重症くも膜下出血は,その手術成績が徐々に向上しつつあるが24),適応や治療法にはいまだ議論がある.近年,超急性期手術10,21,22,31,52),脳内出血や水頭症合併例に根治術を行う16,35,41),脳圧コントロール下に観察しグレードの改善した例に根治術を行う38,46),低体温療法や,barbiturate療法32)などの脳保護法の応用等,多くの方法が積極的に行われるようになってきた.血管内手術法も1つのオプションとして考えられている9),Mass effectを呈する脳内出血合併例あるいは鋳型状脳室内血腫を伴う例に対する緊急手術の適応は,ほぼコンセンサスが得られてきたが5,29,54),純粋なくも膜下出血のみの例に対する手術適応は定まっていない.その理由として,重症くも膜下出血に多くの問題が内在していることが挙げられる.
1)重症くも膜下出血の定義が曖昧(くも膜下出血の神経学的グレードそのものが曖昧).2)神経学的グレードに代わる客観的な検査法が確立されていない.3)重症くも膜下出血本態の詳細な解明がなされておらず,複数の病態が混在している.4)開頭クリッピングあるいは血管内手術と,引き続く血管攣縮やcatecholamine surgeによる心肺機能低下等の合併症に対するsystematicな考え方の不足2,7).5)根治術後の予後不良例では,家族・自治体・医療保険支払い機構を含めたsocioeconomical,あるいはethicalな問題の存在.7)脳死臓器移植時代となった今日では,最重症くも膜下出血症例が,時としてdonorとして捉えられており,これまでの14例の脳死臓器移植例の半数はくも膜下出血例である.しかし,重症くも膜下出血例にintensive careを行えば行うほど,脳死判定に至るタイミングが困難となり,また使用する薬物・低体温療法の基準が曖昧であり,いまだdonorの数は少数に留まっている.
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