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先日,深部脳腫瘍の手術に手術用ナビゲーターの力を借り,それなりに満足の行く手術を行うことが出来た.少し前まで,手術用ナビゲーターなど私には不用であり,術者は当然のことながら手術のオリエンテーションは頭の中にしっかりと叩きこまれているもので,術者の摂子の先には目がついていると豪語していた.それが何時のまにかナビゲーターを重宝している自分に可笑しくなった.
振返ってみると,私の脳神経外科医としての生活もずいぶん長くなった.優れた手術手技を備えた脳神経外科医の道をめざし努力してきたつもりだ。今日の脳神経外科手術手技の発展は目を見張るものがあるが,それは一朝一夕に成ったものではなく,その間には幾つかの節目があったように思う.若い頃,手術の勉強のために幾つもの手術書を読みあさった.しかし,当時の手術書は図説が貧弱で解剖書の助けを借りても,なかなか手術の手順を立体的に身体で憶えることは難しく,勢い先輩の手術をみて,手術のコツを盗まなければならなかった.今のようにテレビモニターもない時代であり,余程きれいな手術でなければ,実際の手術における解剖学を理解することは困難であった.丁度その頃,Kempe先生のOperative Neurosurgeryが出版され,まさに目からウロコが落ちたような思いで,刻々と変る術野のリアルな図をみながら説明文を読み,自信を深めた.すぐれた外科医の手術記録には必ず正確な術野が図示されているのを思いだし,これは外科医の修練の秘訣であると肝に銘じた.この事は,今日においても変りないものだと思う.その後,テクノロジーの開発に伴い,数知れない精細な診断,治療機器が導入され,手術もその恩恵に与る事となった.鮮明で明るい手術用マイクロスコープ,ファインな手術器具も安全な手術には欠かすことができない.ビデオの普及で名手の手術を何度でも見ることができる.名人芸としての手術は勿論残るとしても,脳外科医の一般的な手術レベルの向上には多大な貢献をしたと言えよう.ナビゲーターを用いて三次元の像によるオリエンテーションのもとでの手術が日常茶飯事となり,内視鏡や術中の画像診断の力を借りての手術など,安全かつ完全な手術が比較的容易となった.
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