扉
「天寿がん」について
松谷 雅生
1
1埼玉医科大学脳神経外科
pp.873-874
発行日 1997年10月10日
Published Date 1997/10/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1436901460
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本年4月,90歳を越えた大女優Sが膵臓がんにより死去した.報道によると昨秋の舞台を好評裡に終え,12月には今春公演の打ち合わせに元気に出席していたとのことである.ところが年末に体調を崩して入院し,公演は代役がつとめることになった.それでも2月頃は舞台復帰を目指し,病室で体操し体力の回復に努めていたそうである.その後1カ月余りで状態が急変したのであろう.死へ向かって坂道を転がった期間はごく短く,おそらく激しい苦痛もなかったのではないだろうか.痛みをこらえたという話は聞こえてきていない.
高齢者,超高齢者のがんが増加している.これらのがんの中には,他の年代には見られない独特の生物学的特徴,ないし自然死を示すものがある.その1つの稀有な極型として,さしたる苦痛なしに天寿を全うしたように人を死に導く「天寿がん」という概念が提唱されている.癌研究会癌研究所の北川知行所長(病理学)を中心とする厚生省の助成研究の1つである.
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