連載 公衆衛生のControversy
公衆衛生はデモクラティックであったか
求められる新しいパラダイム/人権尊重,地方分権推進の衛生行政を
小野 昭雄
1
1厚生省国立医療・病院管理研究所
pp.668-669
発行日 2000年9月15日
Published Date 2000/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401902369
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『広辞苑』では「民主主義」とは,「人民が権力を所有し,権力を自ら行使する立場をいう.(略)基本的人権・自由権・平等権あるいは多数決原理・法治主義などがその主たる属性であり,また,その実現が要請される」とある.この定義から公衆衛生活動をながめると,個別の活動の多くは法律や行政指導により展開されてきており,国民の意見を直接反映する国会での審議,議決を踏まえて展開されてきた,ということができる.しかし,1970年代に至って,これまでの公衆衛生活動に対する反省の必要性が主に「人権尊重」の視点から提起され,公害問題への対応,精神障害者の人権問題,食品中毒患者の救済など多くの分野で主として若手の公衆衛生従事者から問題提起が続出した.これらの批判は,法制度の不備,法運用の一律性などに起因するものと考えられるが,根本的には,「集団防衛」の発想を色濃くもっている公衆衛生活動の中で,個人の人権がともすれば侵害されがちになることにもつと注意を払うべきである,との基本認識に基づいたものと思われる.
一方,批判を生む素地が公衆衛生活動の方法論そのものの中に内在しているのではないか,という疑問は公衆衛生のあり方を問い続けた一部の関係者の間で取り上げられていたが,顕在化しなかつた感がある.しかし,21世紀を控えて社会・人文・自然科学の分野でこれまでの体系を越える方法論についての議論が活発となっており,公衆衛生についてもその体系を新しい時代にマッチしたものにしていく必要性が指摘されている.
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