扉
Quo Vadis
朝長 正道
1
1福岡大学脳神経外科
pp.111-112
発行日 1991年2月10日
Published Date 1991/2/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1436900208
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12月には,おつき合いが多く,連日のように夜の巷へ出かけました.大抵はすっきりした顔で帰りますが,時には年甲斐もなく杯を重ね,午前さまになることもありました.ある晩,家内をたたき起こし,おい,ママ帰ったぞ,とわめきましたら,どこのクラブだと思っているの,ママと言ってさえおればどこででも通るんでしょ,とやられました.酔った頭で,なるほど,そりゃそうだ,ママと呼んでおればお互いに幸せだし,高い飲み代もママ,ママと寄り添う濡れ落ち葉料か,と感心しました.
考えてみると,このママと似たように使われているものがあります.それは先生という言葉です.われわれ医師や教員に弁護士,政治家に議員そして高級官僚,芸術家や芸事の師匠など,先生と呼ばれる職業はゴマンとあります.何と呼べば良いのか迷った時には,先生と言っておけば当たり障りなさそうですし,嫌な顔をする人は誰もいません.しかし先生と呼び掛けるほうは,何が先生か,でも世の中のしきたりだから,まあそう呼んでおいてやるわ,と腹の中で咳いていることも多いようだし,一方呼ばれるほうは,単純に喜んでいる人もいましょうが,呼びようがなくて先生と言ってるな,先生と言われるほどの馬鹿じゃないそ,しかし折角だから嬉しそうな顔をしておくか,と考えている人も少なくないようです.私などは,医者で学校の先生ですから,先生の自乗です.掛け合わせて1以上になれば良いんですが,それぞれが1以下の時には悲惨な評価になります.
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