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最新知見を網羅したMS・NMOSD診療のバイブル
多発性硬化症(multiple sclerosis:MS)は中枢神経障害を引き起こす代表的な自己免疫疾患であるが,その疾患概念は21世紀に入って大きく変化した.従来はMSの1つのサブタイプと考えられていた視神経脊髄炎(neuromyelitis optica:NMO)が,NMO-IgGすなわちアクアポリン4(aquaporin 4:AQP4)抗体が見いだされたことにより病態の異なる疾患と考えられるようになり,さらにAQP4抗体陽性症例の臨床像が多様であることから視神経脊髄炎スペクトラム障害(neuromyelitis optica spectrum disorders:NMOSD)という疾患概念が生まれた.また,中枢神経のミエリンを構成するミエリンオリゴデンドロサイト糖蛋白(myelin oligodendrocyte glycoprotein:MOG)に対する自己抗体の関連する疾患として,MOG抗体関連疾患(MOG antibody-associated disease:MOGAD)も類縁する疾患として確立されてきた.これらの中枢神経の炎症性疾患に対する治療も,従来のステロイド,血漿交換,免疫グロブリン製剤や免疫抑制薬に加えて各種の分子標的薬が導入されるようになっている.本書はこうしたMS,NMOSD,MOGADの最新情報を中心とし,それに加えて急性散在性脳脊髄炎(acute disseminated encephalomyelitis:ADEM)やバロー同心円硬化症(Baló concentric sclerosis:BCS)も対象として,日本神経学会が主体となって作成された診療ガイドラインであり,『多発性硬化症・視神経脊髄炎診療ガイドライン2017』の改訂版である.前の版の出版からこれまでの間に多くの進歩がみられたが,特に新規治療薬の導入は数多く,知識の整理が必要であり,今回の改訂はまさに時宜を得たものといえよう.
本書は3つの章から成り立っている.第Ⅰ章は,中枢神経系炎症性脱髄疾患診療における基本情報であり,それぞれの疾患の概要から診断,治療について詳細に記載されている.この第Ⅰ章を通読するだけで,稀少疾患であるMS,NMOSD,MOGAD,ADEM,BCSについて,要領よく理解することができるであろう.また免疫性神経疾患の治療薬について,まとまった知識を得るにも最適の教材と考えられる.第Ⅰ章の最後には,医療経済学的側面および社会資源の活用として,診療において重要な検査や治療の保険適用,法律や制度,療養や就労の支援などについて述べられていて,日常診療に役立つ内容となっている.
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