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Ⅰ.はじめに
PET(positron emission tomography:陽電子放出断層シンチグラフィ)は,ポジトロン(陽電子)を放出する放射性核種を検出して断層撮影を行うものである.このポジトロン放出核種として代表的な炭素,窒素,酸素などは生体構成元素であり,生体に必要な化合物をこれらの核種で置換することにより,生体の生理・化学的情報を定量的に描出することが可能となる.脳腫瘍,特に悪性脳腫瘍の診断におけるPET標識化合物としては,ブドウ糖代謝を測定する18F-FDG(2-deoxy-2-[18F] fluoro-D-glucose:FDG)が最もよく知られている.FDGはブドウ糖の類似化合物で,ブドウ糖と同様にglucose transporter(GLUT:グルコース輸送体膜蛋白)と結合して血液脳関門(BBB)を通過し,脳組織に入りhexokinaseによりリン酸化されてFDG-6-リン酸となる.しかしFDG-6-リン酸は,ブドウ糖-6-リン酸と異なり,phosphoglucose isomeraseの基質とはならず,解糖系へ進むこともなく,またリン酸化の逆反応である脱リン酸化も受けにくい.したがって,FDG静注後より45~60分経過後の局所脳放射能分布は,局所脳ブドウ糖消費量をよく反映しているとされる.癌細胞においては,悪性度の高いものほどGLUTが過剰発現し,またhexokinaseの活性化が亢進しており腫瘍へのFDGの集積は増加する.
一般に,脳腫瘍においても悪性度が高い腫瘍ほど糖代謝が活発なため,FDGは強い集積を示し,悪性度の評価や治療効果判定,予後の推測などに有用であるとされている38).しかし正常大脳,特に大脳皮質では糖代謝が盛んでFDGが強くとりこまれるため,脳腫瘍のFDG-PETは他部位の腫瘍と事情が異なり,正常集積部との比較に注意が必要である.神経膠腫においては,glioblastoma multiforme(gradeⅣ)では正常大脳皮質よりFDGが強く取り込まれることがあるが,diffuse astrocytoma(gradeⅡ)では大脳皮質より取り込みが弱く,場合により大脳皮質の取り込み低下が神経膠腫の局在診断となる場合もある.Anaplastic astrocytoma(gradeⅢ)では細胞密度などによりFDGの取り込みの程度はさまざまである.また,小さな腫瘍の局在診断や腫瘍の範囲の正確な同定はFDG-PETでは不可能である.
一方,脳腫瘍の治療効果判定や再発診断において,FDG-PETは細胞レベルでの代謝をみるため,非特異的な造影効果や信号変化を捉える形態学的画像診断と比較して特異度が高く,予後予測にも有用であると考えられる.しかしながらFDGの取り込みは腫瘍細胞のみに特異的ではなく,viableな腫瘍細胞よりも壊死巣周囲のマクロファージや治療によって変性した腫瘍細胞にも多く取り込まれる.また多くの良性病変や脳膿瘍でもFDGは集積することが知られている.
FDGの欠点と限界を克服するために腫瘍に特異性の高いトレーサーの利用が試みられており,11C-メチオニン(L-methyl-[11C] methionine:MET)もその1つである.必須アミノ酸であるメチオニンは,中性アミノ酸の一種で,元来蛋白質合成能を評価する目的で開発されたトレーサーであるが,PETで撮影できる時間内(投与後20~30分間)では脳組織へのアミノ酸輸送を主に見ているだけであると考えられている.投与されたMETは主に中性アミノ酸の能動輸送機構によりBBBを通して脳に取り込まれるが,一部は障害されたBBBを介した受動的な拡散も脳への取り込みに関与しているとされている.
METの臨床使用における問題点は物理学的半減期が短いことである.半減期が比較的長い18F化合物である18F-FDGが2005年7月に放射性医薬品としての承認を受け,ハブ・サイクロトロン施設からのデリバリーサービスによるPET検査が可能となったが,11Cの物理学的半減期は20分と短いため,MET-PETを行うには施設にサイクロトロンを設置することが必須である.また1回に十分な量を合成しても施行できる検査数には限りがあり,数多くの検査を行うためには何回もの合成を必要とする.
本総説では,脳腫瘍の初期診断や再発時の診断おけるMET-PETの有用性を,自験例を提示しながら概説する.
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