Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
- 参考文献 Reference
Ⅰ.はじめに
頭部外傷データベース構築の目的はなんであろうか? 小川ら42)は重症頭部外傷の臨床疫学的調査の目的を「頭部外傷の予防,治療,予後研究に役立てること,これまで見逃されていたと考えられる外傷患者の予防,治療対策に役立てようとするものである.また,更に重症生存者に最適のリハビリテーションなど,患者家族が最も期待する対策を追求し医療が果たす社会的貢献を一層向上しようとするものである」と述べている.
一方,わが国における代表的な疾患データベースである「がん登録」事業についてみると,従来のがん登録の種類には,院内がん登録,地域がん登録,臓器がん登録の3つがある.院内がん登録は,施設内で診断・治療を行ったすべてのがん患者についてその診断・治療・予後に関する情報を登録し,①施設のがん患者の受療状況の把握,②施設のがん患者の生存率の計測,③施設のがん診療の企画・評価のための資料提供,④がん診療活動の支援・研修のための資料提供,⑤診療患者の継続受診支援,⑥地域がん登録,臓器がん登録への診療情報の提供,などを目的としている.地域がん登録は,ある地域に居住する全住民の中に発生したすべてのがん患者について,診断・治療・死亡に関する情報を登録し,①地域のがん罹患率の計測,②がん患者の受療状況の把握,③地域のがん患者の生存率の計測,④検診などの予防対策の企画・評価,⑤医療施設への情報提供,⑥疫学研究の推進,などを目的としている.臓器がん登録は,学会や研究会が独自に実施している症例登録の総称であり,院内がん登録や地域がん登録に比較してさらに詳細な情報を収集して,国内のがん取り扱い規約や診療ガイドラインの作成・改定に用いられることが多い64).
2013年12月6日に国会で「がん登録等の推進に関する法律(がん登録推進法)」が成立し,2016年1月から医療機関での院内がん登録情報の都道府県への提出が法的拘束力をもって開始される.さらにこれらのデータは国立がん研究センターの中に設置されている「全国がん登録データベース」に登録され,分析・研究されることになる.法律に裏づけされた疾患データベースの1つであるがん登録は,悉皆性が担保されており,さらに全国共通フォーマットであることから精度の高い分析成果を得ることが期待されている.
疾患データベースの存在意義は法的な裏づけの有無にかかわらず,対象疾患を取りまく現状を知ること,そしてその座標軸を土台に対象疾患に対する新たなアプローチを医学的・社会的に展開する過程を通じて世界に貢献していくことにあると思われる.本稿では国内外のさまざまな頭部外傷データバンクについて概説する.
Copyright © 2015, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.