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Ⅰ.はじめに
脳動静脈奇形の治療の主たる目的を,「一生涯における脳出血による機能障害や死亡を回避すること」とした場合,その目的は血管撮影で描出されないことをもって,ほぼ達成されたと考えられる.脳動静脈奇形に対する侵襲的治療手段として,血管内治療,外科的切除,定位放射線治療があり,各々の治療に伴う合併症率,出血リスク軽減効果,その効果が得られるまでの時間,期待される長期予後などを勘案し,単独または複合治療の治療方針が決定されるが,無症候性病変や出血既往のない病変については,治療リスクの観点から侵襲的治療を控える傾向がある.無症候性かつ出血既往のない脳動静脈奇形に対する予防的な治療介入では,いずれの治療方法であっても,術前の適切な治療計画と十分なインフォームドコンセントが必要であり,計画性のない治療介入は出血リスクを上昇させる可能性がある.脳動静脈奇形は特に若年者における脳卒中の重要な原因であり,発見の時点では数十年の生命予後を有する未破裂脳動静脈奇形患者に対する治療方針決定の際には,経過観察における生涯の出血を含めたイベント発生リスクだけでなく,脳動静脈奇形を抱えて生活するという精神的苦痛によるQOL低下,内科的治療および侵襲的治療に伴うリスク,治療介入に伴って得られるベネフィットについて,医師と患者の間で十分に情報を共有することが大切である.
脳動静脈奇形では,各患者の背景や病変が多様であること,治療法が複数あること,また実際には患者ごとに治療リスクが大きく異なるため,一律に治療方針を決めることが難しい.また侵襲的治療手段としての血管内治療,外科的切除,定位放射線治療,およびその複合治療のいずれにおいても,その有効性を統計学的に証明することは困難であり,常に一定の不確実性のもと,治療チームごとの経験に基づいた方針で日常診療が行われている.最近,未破裂脳動静脈奇形に対する侵襲的治療の意義を明らかにするために,内科的治療のみを行う群と何らかの侵襲的治療(外科的切除,血管内治療,定位放射線治療の単独または組み合わせ)を行う群の間でランダム化比較試験(RCT)であるA Randomized Trial of Unruptured Brain Arteriovenous Malformations(ARUBA)が行われ,その中間解析が発表された15).本稿では,ARUBA studyの概要と中間解析,本試験の解釈について概説し,RCTの結果がもたらす脳動静脈奇形治療への影響とその対応についても言及する.
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