扉
パノラマ事件から学んだこと
牧 豊
1
1筑波大学臨床医学系脳神経外科
pp.431
発行日 1984年3月10日
Published Date 1984/3/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1436201820
- 有料閲覧
- 文献概要
御存知の方も多いと思われるが,1980年の英国のパノラマ事件は脳死を考える上で私には学ぶことが多かった.事件は1980年10月113日午後8時,BBC放送が《臓器移植—提供者は本当に死んでいるのか?》という甚だshockingなTV番組を50分放映したことに始まった1内容は一度脳死の宣言をうけたが,脳波検査を行い死の宣言を免がれた米国の4例についてであった.神経学的検査だけで脳死の判定を行なっている英国の脳死判定規準へのマスコミの挑戦として,その後6ヵ月,英国の世論を攪拌した.実際には不適当な症例であり物議をかもしたのはTVであったが,当初のヒステリックな世間の反応から一件落着までの模様はLancet,Brit.Med.J,TheTimesにvividに連続掲載され探偵小説より面白かった.
得られた教訓−1)脳死の実際の認識がマスコミ,大衆,専門家以外の医師にも欠けていたときのTVの腕力の凄さ,2)専門家の積極的な公報活動の勇気と努力が国民的合意を得るには必須であること,3)臨床医学の情報は放送に先だち,医学とマスメディアとの話し合いの正式機関を持つ必要がある,などを痛感させられた.臨床医の仕事は生きるための医学で,生の出発点の誕生と生の終点である死を正確な時刻として,臨床医は宣言する責任と権限をもっている.法律家も宗教家にもこの仕事はできない.死に関しては法的定義もなく,死は臨床の問題として法律は介入することは今までもなかった.
Copyright © 1984, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.