扉
研究の醍醐味
岡 益尚
1
1和歌山医科大学脳神経外科
pp.709-710
発行日 1975年9月10日
Published Date 1975/9/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1436200345
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実験や手術にわれを忘れているときほど,楽しいときはありません.思いかえしてみると,そのようなときはそう多くはありません.戦後,荒廃の中で測定器具もまだほとんどないときでした.ふるいキモグラフイオンや水銀寒暖計ぐらいしかありませんでしたが,どこかに電気検温計があるはずだから,それをつかって顔の皮膚温度をはかって真性三叉神経痛の患者の一側性顔面紅潮について考えてみろ,との指示をうけました.しかたなく熱電対からつくりはじめました.温度較正や増幅器などの苦労もありましたが,それよりもこの温度計測,なにがほんとの値なのか,やればやる程むつかしくて情なくなる程でした.しかしその勉強と観察によって生物学的計測の基本と技術とが徹底的に私に叩きこまれたのでした.測定装置をセットして,刻々のデータを記録してゆく途中でその測定値が予測した方向から次第にはなれてくると,心は次第にたかぶり,動物の眼をみ,鼻毛をみ,部屋の温度をみ,湿度をはかり,実験台のまわりを歩きまわり,実験内容や条件のこと,作業仮説の反省やこれからの実験の組立てなど,めまぐるしく頭のなかを去来して,睡気などフッ飛んだことを楽しくおもいおこします.
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