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昨年防衛医科大学校に赴任して間もなく,私は関連施設である自衛隊中央病院を訪ねた.自衛隊中央病院は,世田谷区池尻という都会の一等地に忽然と存在する,広大なる陸上自衛隊三宿駐屯所敷地内に併設された自衛隊職域病院である.軍服で身を固めた門兵に防衛教官の身分証明書を提示して駐屯所内に入ると,周辺の軍事関連施設群とはやや違和感を覚えるように,近代的な白亜の病院がそびえている.脳神経外科部長である有本医師に手術室などを案内していただいた.有本部長より「彰古館という資料館がありますので,ご覧になりますか」と聞かれ,あまり気のりがしなかったが案内されるままに,同じ三宿駐屯所内の陸上自衛隊衛生学校内に併設された彰古館を訪れた.
その彰古館は,うらぶれた小さな建物であり,なぜか人目をはばかるようにひっそりと佇んでいた.当時の彰古館学芸員であった木村益雄さんの案内で踏み入れた資料室は,失礼ではあるが一見薄汚い印象であったが,次の瞬間から私は目を疑うものを次から次へと目撃することとなった.彰古館には,明治初期から太平洋戦争,さらに現代にいたる数々の軍陣医学に関する多くの資料と外科機器や日本最古のX線撮影装置などの現物が保存されている.作家・渡辺淳一氏の『光と影』の題材となった寺内正毅大尉(後の内閣総理大臣)の西南戦争・田原坂の激戦で受傷した上腕骨貫通銃創の術後写真,作家・新田次郎氏の『八甲田山―死の彷徨』の題材となった雪中行軍遭難者たちの凍傷図(昨年,同資料館で実物写真が偶然に発見されNHKで放映された),乃木希典大将の銃弾片の残る足のX線写真や,はては乃木大将のご子息であり,日露戦争でお亡くなりになった勝典歩兵少尉の腹部銃創からの摘出弾まで保存されていた.
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