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本号も,岩月幸一先生のfailed back syndromeに関する総説,村橋威夫先生のくも膜下出血後脳血管攣縮に関する研究など,多彩な内容が盛り込まれている.「扉」の中で藤巻高光先生は,「女性医師がそのキャリアを妨げることなく出産できる社会を作っていかなくてはならない」と述べられている.今や医学部生に占める女子の割合はかつてとは比較にならないほど高い.彼女たちはキャリアとプライベートとの両立に際して多様な人生観を持ち,その多様性に柔軟に対応できないようでは否応がなしにわれわれの診療科はdown sizingせざるを得なくなる.そうなれば組織としてのチカラが低下喪失する.藤巻先生のいわれる「零細企業」であるがゆえに,画一的ではない柔らかな対応に活路を求めることが必要になる.
さて,本誌には多数の症例報告が掲載されている.私は若者にはできるだけ症例報告を書くよう勧めている.多くの医師にとって初めての学会発表や論文執筆の対象はたいてい症例報告であり,症例報告は論文執筆への入門編ともいえる.編者の教室でデータをとってみたところ,専門医を取得する前に英文で症例報告の執筆した経験をもつ者ともたない者との間には,生涯の論文業績には有意な差があった.一方,海外商業出版社が発行する英文雑誌ではimpact factor(IF)を低下させる因子として症例報告を敬遠する傾向がある.この原因の1つは海外商業出版社の従来型戦略にある.その戦略とは購読者(図書館)支払いモデルであり,できるだけ多数の医学誌の委託出版を行い,様々な情報戦略により雑誌のIFを上げて自社の公開プラットフォームのみで公開し,図書館などにパッケージとして販売するというものである.しかし,オープンアクセスの時代を迎えて,このビジネスモデルはすでに曲がり角に来ている.読者の検索行動はすでにGoogle ScholarやPubMed中心になっており,出版社のもつ公開プラットフォームとは限らない.また,投稿数が増えるほど収益があがる著者支払いモデルが台頭してきている.時代の変化と共に,それぞれの医学雑誌はいかなる読者対象をもち,どのような特長をもつべきかを考えていかねば存在意義が薄れてしまう.母国語による症例報告を多く掲載し,若い脳神経外科医の論文作成能力を育むということも,本誌にとっての重要な役割ではないかと考える次第である.
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