扉
待遇改善の原資と傾斜配分の必要性
金 彪
1
Phyo KIM
1
1獨協医科大学脳神経外科
pp.413-414
発行日 2010年5月10日
Published Date 2010/5/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1436101161
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政権が変わり,診療報酬の10年ぶりの引き上げ,医師技術料など本体部分の1.55%増額が決定された.勤務医の負担軽減などが真剣に議論され,また医学部定員の増加,さらに医学部新設の話題など,今後の医療のあり方をめぐって変化の兆しが見えていると言ってよい.報酬総額増だけでなく医師支給技術料の導入や,異分野間の医師偏在対策など,医療コミュニティーの中だけで話題にされていたことが,公的議論に上るようになった.
しかし経済全体の現況は,1人あたりのGDPがかつてのトップクラスから23位まで転落し,総額で中国に追い越され(購買力平価),この状況を一言で要約すればデフレであり,それに「スパイラル」という言葉が付くかどうかの状態である.新産業改革,エネルギー・交通革命など,経済再活性化の方向性ははっきりせず,税収はますます減る傾向にある.財政赤字はGDP比7%を超えており,国債債務残高はGDP比190%で単独首位,米国,英国,ドイツ,フランスなどの2倍以上である.経済全体の見通しが悪い状況下で,医療の技術集約的分野における有効な人的資源の保全強化策,待遇改善などを,財源に負担をかけずにどう成し遂げるのかが現実的な課題であろう.脳神経外科をはじめとする外科医療供給側の危機状況を述べて理解してもらうことは必要だが,声高にさらなる診療報酬の増額,新項目の創設など,財政資源の振り向けを要求するだけでは説得力に欠けるのではなかろうか.それではむしろ,全体像を見ようとしない集団であるというイメージを与えかねない.また診療報酬の増額分が人的資源,即ち賃金報酬に振り向けられるかどうかは医療機関の個別の経営状況と裁量次第である.
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