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Ⅰ.はじめに
水頭症をはじめとする脳脊髄液循環障害によって生じる疾患の治療には脳脊髄液(cerebrospinal fluid:CSF)の循環動態を理解することが重要である.しかし現状では,生理的な状態でのCSF循環においてさえも脳神経外科医はその一部の側面を把握するにとどまっている.
東芝メディカルシステムズによって開発されたtime-SLIP(spatial labeling inversion pulse)法を基礎として,CSF flowの観察に適するように筆者との間で共同研究を行い,CSF bulk flow imagingが開発されてきた.ここでは,この最新の手法によって得られた知見を中心として,脳脊髄液循環動態(CSF dynamics)について述べる.Time-SLIP法は,造影剤を使用しない非造影MRI撮像であり,非選択励起パルス(non-selective IR pulse)と選択的励起パルス(selective IR pulse:ラベリングパルス)を用いて,CSFを内因性の造影剤として使用できるところに最大の特徴がある37).従来のCSFのトレーサースタディでは,トレーサーを脳脊髄腔に投与することにより頭蓋内環境を乱すため,自然な生理的条件下での観察ができないだけでなく,radioisotope(RI)やメトリザマイドといったトレーサーの質量や粘性はCSFとは大きく異なるので,トレーサーを観察することで目的のCSFの流れを正確に描出できているかに問題があった.非常に早い速度で血管内を流れる血液ではこの点は無視できる範囲であっても,比較的ゆっくりとした流れが想定されるCSFの場合にはとても重要なポイントとなる.Time-SLIP法では,CSFそのものの物理的・生理的特性を変化させることなくRF(radio frequency)pulseでラベリングすることができ,内因性トレーサーとなるのでこの問題が一挙に解決される.さらにtime-SLIP法では,ラベリングパルスを観察したいCSFの場所,方向によって自由な位置に設定することができ,脳の解剖に沿ったCSFの流れの観察を可能とした.この点もCSF観察にとって非常に有用な機能で,正確な流れの方向の描出,頭蓋内の異なるキャビティーの連続性,交通性を判断したいときに重宝する.RIあるいはメトリザマイドCTを使用した脳槽造影は数時間~数日という観察時間単位であり,MRIを使用したphase contrast法によるcine MRIでは,1心拍すなわち約1秒以内でのCSF flowの観察であったのに対し,本法では1.5~6秒ほどの時間単位での観察を可能とした.すなわち今までは得られなかった時間単位でのCSF flowの側面が描出可能となった.Phase contrast法が“to and fro”を描出するのに対して,この方法をCSF bulk flow imagingと名づけた.これはつまり,あるA点からB点への観察時間内(約6秒間)でのCSFの移動を描出するという意味である.もちろんCSFの拍動流としての側面も観察時間内で合わせて描出されてくる.特に,time-SLIP法で得られた画像を動画にすることによりbulk CSF flowを表現することは,臨床の現場においてとても便利で,直感的にその流れの特徴をつかむことができるだけでなく,専門家でない患者,そのご家族への説明のときにとても説得力のあるツールとなる.
実際に観察してみるとCSFは教科書から想像されるよりずっとダイナミックな動きをしていることが認められ,本法以前では想像できなかった流れの情報が得られるようになってきている.
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