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Ⅰ.はじめに
わが国では高齢化が急速に進行しており,社会のさまざまの局面でその対応が迫られている.特発性正常圧水頭症(iNPH:idiopathic normal pressure hydrocephalus)は高齢者にみられ,歩行・認知・排尿の機能障害を呈し,髄液シャント術にて症状の軽減が得られる症候群である.1965年にHakimら1)がはじめて報告して以来,“治療可能な認知症”として注目を浴びたが,くも膜下出血や髄膜炎後などの二次性正常圧水頭症とは異なり,iNPHは有効例が少ないことやシャント合併症が多いために手術適応外としてしまい,その後は関心を持たれなくなったという歴史がある.この“暗黒の30年”とでも呼ぶべき歴史の背景には,診断が適切でなかったことやシャント機能を至適な状態に維持できなかったことがあったと考えられる.近年,診療ガイドラインの公表や圧可変式差圧バルブの使用といったことにより,再びiNPHが注目されるようになっている.しかし,多くの未解決の問題が残っており,これらを1つ1つ検討し解決することが,高齢化社会にむけての脳神経外科医の責務の一端と考えられる.
本邦の診療ガイドラインは2004年に公表された4,9)が,翌年には国際診療ガイドラインが公表されている7,11).両者は同じevidence-based medicineの方法に準じて作成されているが,いくつかの点で違いがみられる.その違いは,iNPHの定義に関する問題や,また,検査は診断精度優先か否かといった問題に由来している.本稿では,本邦と国際の診療ガイドラインの比較を通してiNPHの定義や診断に関する議論に触れるとともに,最近検討がすすみつつあるiNPH関する本邦初の共同研究である“Study of idiopathic normal pressure hydrocephalus on neurological improvement:SINPHNONI”の結果の一部も交えて,iNPH診療の最近の動向について述べることとする.
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