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今からちょうど20年前,私は米国フロリダ州ゲインズビルにあるフロリダ大学に留学していました.ゲインズビルからオーランドにあるDisney Worldまで車で2時間です.1988年にはMickeyの還暦のお祝いで華やかなショーが催されていました.Disney Worldにはシンデレラ城のあるMagic Kingdomとは別にEPCOTというもう1つの施設がありました.EPCOTとはExperimental Prototype Community of Tomorrow(近未来都市)のことです.その中のSpaceship Earthというアトラクションの中に,生まれたばかりの可愛い女の子がいつしか少女となり大学を卒業して宇宙飛行士を目指し,ついにはロケットで宇宙に飛び立っていくシーンがありました.当時,大きな夢に向かって確実に成長していくアメリカの女性は格好いいなあ,と思って感動したのを覚えています.2008年の北京オリンピックではひたむきに金メダルをめざして活躍する日本女性の姿に国民が勇気づけられました.BSL(bedside learning)で医学生と話して思うことは,医学生は将来の夢と志を忘れていないということです.それなのに理想とする指導者に巡り会えず,なんとなく卒後研修を受けている間に夢と希望が薄らぎ,周囲の雑音につぶされ医学生時代の高い志はいつしか消え去っているのです.オリンピックでは20歳前後の若者が世界一を目指して活躍しています.現役24歳で卒業する医学生が卒業時に将来の専攻を決められない研修制度はいったい何なのか.医学生時代から金メダルを目指して走り出してもらいたいものです.
1980年代フロリダでは,医療訴訟の増加で産婦人科医がいなくなってしまったという話がつぶやかれていました.当時,こんな楽しい夢の世界でどうしてと実感がわきませんでした.20年後の現在,日本が同じ状態に陥っています.患者はクレーマーとなり,にこにこ和解弁護士が増え,裁判官は医療の正当性とは無関係に判決を下します.ある施設での医療訴訟で1億数千万円の和解判決が下されました.くも膜下出血でVPシャントをされていた患者さんがシャント不全になり,緊急手術を受けた際に脳室側にトラブルが生じ後遺症が残ったのです.鑑定を依頼された医師は,たとえシャントチューブの断裂が明らかであっても術前にシャント造影が必要であったと判断しました.別の医師に再鑑定をお願いし医学的に異なる見解があることを裁判所に訴えても相手にしてもらえず,弁護士も和解を勧めるだけで医師のプライドなどかやの外です.裁判所からの返答の一部を以下に紹介します.“民事裁判における判断は,法廷に提出された証拠のみに基づきなされなければならないという制度になっていることから,医学における証明(自然科学的な意味での証明)とは必ずしも同じではないことを十分理解いただきたいと思います.”この返答が意味するのは,医師が医学的に正当な治療と判断して行った治療であっても処罰され得るということです.医療訴訟が増加していく中,患者を助けようとがんばっている医師のことを思い,将来の日本の医療を真剣に考えて行動してくれる弁護士(民事専門,刑事専門),鑑定医師の選択が不可欠です.セカンドオピニオンは患者のためだけにあるものではありません.弁護,鑑定を依頼する場合は,日夜救急医療に携わる医師のために誠心誠意戦ってくれる人にお願いしなければならないと思います.医師の法律に対する知識不足が高額賠償の判決を受けた最大の原因ではないかと痛感させられます.
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