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Ⅰ.はじめに
傍トルコ鞍部は,3cm立方程度と小型ではあるが,解剖学的・組織学的には複雑に構成された構造である.土台となる骨の上に脳神経,内頸動脈とその分枝,海綿静脈洞,下垂体およびそれらを取り巻く髄膜が複雑な解剖学的位置関係で配置されており,さまざまな腫瘍がこの部位から生じうる.安全な手術のためには,海綿静脈洞からの出血を最小限に抑えることが肝要であり,また,この部位の脳神経の機能を正常に保つことが患者の術後の日常生活動作にとって重要であることは論を俟たない.傍トルコ鞍部では脳神経は海綿静脈洞内の外側に位置しているが,傍鞍部に生じた腫瘍に対してはこの海綿静脈洞外側部での手術操作が必要となる場合が多く,傍鞍部病変に対する手術を困難にしている大きな要因である.このために,近年良好な腫瘍制御率が報告されている定位的放射線治療がこの部位の腫瘍に対して手術に替わる治療法として普及しつつある8,11-16).
この傍トルコ鞍部からは髄膜腫,血管腫,神経症腫,脊索腫,下垂体腺腫などさまざまな腫瘍が生じる5).これらの腫瘍は,頭部MRIなどの画像上では同じような部位に局在しているようであっても腫瘍の種類・性質によって周囲の構造物との解剖学的位置関係は多様であり5,7,21),この点に留意して外科的アプローチ法を考慮する必要がある.こうした腫瘍の中には,海綿静脈洞の外側壁の微小解剖を把握して安全かつ正確な手術法を用いることにより,脳神経障害をほとんど生じることなく完全摘出あるいは亜全摘出可能なものが存在する.
Dolenc4)は三叉神経鞘腫に対する前側頭開頭硬膜外アプローチ法を報告し,三叉神経鞘腫が硬膜の2層の間隙,いわゆるinterdural spaceに存在することを示すとともに良好な手術結果を報告した.しかしその報告の中では手術アプローチ法に関する微小解剖および組織学的検討は詳述されていない.
本稿では,傍トルコ鞍部の外側部の解剖を健常頭部標本の剖検および海綿静脈洞部の標本切片の顕微鏡写真を用いて解説し,その知見に基づいた低侵襲なinterdural approachについてわれわれの経験を含めて紹介する.
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