Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
- 参考文献 Reference
Ⅰ.はじめに
現在,わが国において神経内視鏡は,狭小空間における微小血管や神経の観察に始まり,非交通性水頭症に対する第3脳室開放術,下垂体腺腫の摘出術や脳内出血の除去術など,さまざまな疾患に対する外科治療に活用されている.その特徴は,神経組織に対しては低侵襲であるにもかかわらず,従来の顕微鏡手術にも勝るとも劣らない局所視野が得られ,かつ疾患によっては内視鏡のみで根治的な外科治療が可能なことである.ただし,低侵襲下での治療を成功させるためには,治療対象となる疾患の性質を十分に理解し,手術操作を行う局所の解剖を熟知することが非常に重要になってくる.
さまざまな疾患に対する神経内視鏡手術が発展・普及する中で,脳内出血,特に高血圧性脳内出血に関しては,そもそも外科治療そのものの有効性を証明するエビデンスが乏しく,脳卒中ガイドライン10)においてもグレードCの推奨度にとどまる治療法であることを認識すべきである.事実,海外の研究8)では,高血圧性脳内出血に対する発症後72時間以内の急性期血腫除去術の有効性については,否定的な結果が示されている.しかしながら,わが国では金谷5)による約7,000症例の調査結果をもとに,外科的治療が比較的積極的に行われてきたという歴史的な背景があり,さらに近年,血腫除去術における内視鏡の低侵襲性が明らかとなるに至って1,2,4),従来の開頭術ではなく内視鏡を用いた血腫除去術が多くの施設で行われるようになった.
ただし,現時点においては内視鏡下血腫除去術が他の治療法と比較して,患者の機能予後を有意に改善するという根拠は明らかではなく,本法の導入が血腫除去術の手術適応を拡大するものではないと考えている.したがって,内視鏡を用いたとしても従来からの手術適応の基準に則って血腫除去術を行うことが原則となるが,内視鏡下に血腫を低侵襲に除去することにより,術後合併症が回避され急性期の患者管理が容易になることは十分に予測されるところである.その結果,患者の急性期リハビリテーションへの移行が促進され,これが機能予後の改善に結びつくと期待するのは極めて妥当であり,今後はこのような予測・期待をエビデンスとして実証していく必要があることはいうまでもない.
これら内視鏡手術の手術適応あるいはその有用性に関する議論は他稿に譲ることとして,本稿では,筆者らが行っている内視鏡下血腫除去術の手術手技を中心に示し,血腫部位の違いによる工夫について解説する.
Copyright © 2008, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.