扉
奥穂高岳夏山診療所への道
岩間 亨
1
Toru IWAMA
1
1岐阜大学医学部脳神経外科
pp.961-962
発行日 2007年10月10日
Published Date 2007/10/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1436100624
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夏の上高地は観光客であふれかえっている.河童橋で奥穂高,岳沢をバックに記念写真を撮る観光客を横目にみて梓川左岸を行くと,急に人影はまばらとなりにわかに山行の雰囲気に包まれる.明神,徳沢を経由して横尾山荘までは3時間ほどのほぼ平坦な道のりだ.木々の匂いを感じ,梓川の水音や鳥たちのさえずりを聞きながら,一歩一歩進んでいくうちに,自分の五感が山の世界に戻ってきたことをゆっくりと感じ始める.
初めての本格的な山行は高校1年の夏だった.白馬岳,大雪渓を歩く心地よさ,栂池に咲く水芭蕉の可憐さを思い出す.山の魅力を知り,その後,友人,父親と,時には単独で鈴鹿や奥三河の山を歩いた.雨の中,ずぶ濡れになって御在所岳の中道を登り,辿り着いたロープウェー山頂駅で,観光客に目を丸くされたことも懐かしい.寧比曽岳で一人幕営した時には,山に入ってから翌日里に下りるまで丸一日,誰一人とも出会わなかった.人家が見えたとき,どれほど安堵したことか.立山で見た満天の星空は素晴らしかったが,遠く眼下に見えた街の灯りはさらに感動的だった.雄大な自然の懐に抱かれて,人間のはかなさと,そんな人間が懸命に生きる姿とを街の灯りひとつひとつに感じていたのだと思う.
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