Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
- 参考文献 Reference
Ⅰ.はじめに
海綿静脈洞は,トルコ鞍の両側に位置し,大脳や眼窩からの静脈灌流が集束する静脈槽である.この近傍には,内頚動脈やさまざまな脳神経が存在し,内部を外転神経が,外側面には動眼神経,滑車神経,三叉神経が走行しており,下垂体や視神経とも接して存在している.そのため,この部位に発生する腫瘍性病変では,こうした脳神経の圧迫によるさまざまな症状を呈するとともに,アプローチの際に,これらの機能を最大限に温存することが求められる3,4).また,術中に内頚動脈を損傷すると,致命的ともなり得るような出血を合併する可能性があり1),腫瘍切除の際に細心の注意を払うとともに,万が一の動脈損傷の際の対処についても十分に検討しておく必要がある.
近年,海綿静脈洞から発生する腫瘍に対しては,ガンマナイフをはじめとする定位放射線治療が重要な役割を占めており,髄膜腫などさまざまな疾患で,脳神経機能の温存と腫瘍制御の両方が安全に達成されるようになりつつある2,5).こうしたことから,この部位に発生する頭蓋底腫瘍に対する切除術の目的は,①病理診断を確定し,治療方針を決定する,②腫瘍の体積を減らし,周辺の脳神経,特に視神経を腫瘍から隔離することで,定位放射線治療をはじめとした追加治療が安全かつ有効に施行できるようにする,③腫瘍による脳神経の圧迫を解除し,症状を改善させること,などが中心となる.さらに,最新の放射線治療を駆使しても,海綿静脈洞腫瘍の長期的な制御率は80〜90%程度であることから,集学的治療の後に再発した症例では,腫瘍の切除を最優先にした徹底した手術治療が適応となる.
本稿では,海綿静脈洞に発生した頭蓋底腫瘍に対する手術を安全かつ確実に行い,上記の目的を十分に果たすために重要となる,画像診断,手術シミュレーションと術中支援について,腫瘍の進展部位と病理組織診断,それらに対する術式に応じて解説を行う.
Copyright © 2017, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.