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脳神経外科の道を選んで,岡山大学脳神経外科西本 詮教授の教室に入局し,既に40年が過ぎ去っていきました.40年間の診断,治療の進歩は目を見張るものがあります.IT技術の進歩によるCT・MRI・超音波の診断技術の進歩に加え,手術用顕微鏡の導入からロボット手術,定位放射線療法の導入,血管内手術など,脳神経外で扱う範囲が広がり1人ですべての治療ができるわけでなく,専門性の細分化が行われていきました.診断技術の高度化や,今までできなかった手術へのチャレンジにより,医療事故などの危険性を増してきたように思います.同時に患者サイドも,より高度で安全な医療と快適な療養環境を求めています.
時代の流れに沿って,癒しの環境の大切さが増してきています.Dr. パッチ・アダムスの映画を見た方もいらっしゃると思いますが,私も2001年の秋にロビン・ウィリアムス主演の「パッチ・アダムス」の映画を見ました.映画は,ハンター・アダムスというアメリカに実在する医師の半生を描いたものでした.彼は自らの入院体験中に“笑いやユーモア”が人の心を癒し,病を克服する力があるということに気づき,医学の道を志しました.名門ヴァージニア大学在学中から権威主義・ビジネス化した現代医療に疑問を抱き,同大学を抜群の成績で卒業と同時に,仲間とともに“Gesundheit Institute(お元気ですか病院)”を設立し,無料で診療にあたっています.その映画を見てからDr. パッチに会ってみたい,岡山に呼びたいと願っていました.2002年9月1日に,高柳和江先生(日本医科大学助教授・医療管理学)の紹介により,Dr. パッチの講演会を岡山で1,500名の聴衆を集めて開催することができました.開催にあたり,特別ゲストとして広島県上下町にあるMGユースホステルの経営者で当時92歳の森岡まさ子さん,司会に山陽放送の岩根宏行氏,ステージマネージャーには長野県在住の山の道化師パックマンこと塚原成幸氏にお願いいたしました.100人に近いボランティアに支えられて,素晴らしいDr. パッチの講演会が開催されました.Dr. パッチからのメッセージは「同情と寛容を重んじる社会への移行,それを実現するには,愛と笑いとユーモアなどの楽しさが必要」「日本の伝統芸術の中に,思いやりに満ちた精神性が溢れている,それを気づくきっかけになれば嬉しい」であったと思います.「愛と笑いとユーモア」を自然なかたちで医療の中に導入できたらどんなにいいか,それが私の夢のひとつです.
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