扉
メランコリーと癒し
角田 茂
1
Shigeru TSUNODA
1
1大阪府立大学人間社会学部/大学院人間社会学研究科
pp.553-554
発行日 2006年6月1日
Published Date 2006/6/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1436100169
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古代ギリシアのアスクレピオス神殿に仕えた,ヒッポクラテス(前460~377)をはじめとする医師たちは,エンペドクレス(前492~432)の4体液説に基づく体液病理学を信奉していた.4体液とは血液,粘液,黄胆汁,黒胆汁であり,それぞれ心臓,脳,肝臓,脾臓で生成され,これらの循環障害により病気が起こると考えられていた.現在の解剖生理学では,血液はそのままの言葉で,粘液は髄液に,黄胆汁は単なる胆汁に変えて理解することができるが,黒胆汁のみは仮想のもので,仮説であった.しかし,エンペドクレスは黒胆汁の過剰状態が,人間にうつ状態を起こす,たちの悪い病態であることを指摘している.黒胆汁の存在は否定されたが,うつ状態があらゆる病気を悪化させることは,現代の精神医学においても真理であり,現在もなお,うつ状態のことを,メランコリー(黒いmelasと胆汁choléの合成語),すなわちギリシア語で黒胆汁症と呼んでいる.うつ状態があらゆる病気を悪化させることを洞察したエンペドクレスは,絶望は死に至る病であることを洞察したキルケゴールとともに,もっと臨床医学の場で評価されてもよいのではないかと,私は考えている.
今年はモーツァルト生誕250周年ということであるが,私は今から24年前に,『私のモーツァルト体験』と題し,次のような文章を書いている.
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