Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
I.はじめに
Transient global amnesia(TGA)は記憶障害を主要徴候とする一過性の行動変化を示す発作を記述した陳述的用語で,1958年にFisherとAdams15)によって初めて用いられた。彼らは1964年に17症例をまとめて,長文の記念碑的モノグラフ16)を発表し,本症候の現象学を確立した。しかし,本症候群の診断基準と病因については現在でもなお明確であるとはいえず,1986年にNeu-rology誌上でCaplan9)とMeadorら33)との間でかわされた論争がこの問題点を浮き出させている。FisherとAdamsは,「TGAは原則として短期記憶の障害による失見当識が突然出現するが,明らかに意識清明さを保ち,かなり複雑な知的行為が可能である。エピソードは通常数時間持続し,エピソード後は以前の健康状態を完全に回復する」と記述している16)。しかし,この条件だけではCaplanが指摘するように種々の原因による健忘を伴う一過性の意識混濁発作も含まれてしまい,実際にこれまでにもTGAという診断で,頭部外傷,クモ膜下出血,てんかん発作,失神,低血圧,低血糖による健忘までが報告されてきたのである。Caplanは500を越えるTGA症例を通読し,review8)を書くさいに,TGA発作を分類するために最低限必要な診断基準を提唱した。すなわち,(1)発作の出現が目撃されている。(2)発作中の機能障害は繰り返される質問と健忘に限られる。(3)他の重大な神経学的徴候を示さない。(4)記憶消失は一過性で通常数時間から1日持続する。しかし,Meadorら33)はこの診断基準はあまりに厳格すぎるので,FisherとAdamsの17症例すらTGAの診断基準から除外されてしまうほどであると反論している。Meadorら33)によると,ほとんどのTGAが予後良好であることに同意するが,TGAのすべてが良性のものとはがえない。TGAはいわば種々の原因によって出現する症候群であり,その原因として,動脈硬化性疾患,血管攣縮塞栓,不整脈赤血球増加症,てんかん,脳腫瘍などが指摘されるのだと主張している。
いずれにしても,TGAは今やよく知られた状態であり,多くの臨床家により経験されてはいるが,その病因についてはがまだ推測の域を出ていない。おそらくは実際にはこの症候群は記憶の登録と想起に関連する解剖学的,生理学的領域に深くかかわる種々の過程で出現するものと思われ,その症候が劇的かつ神秘的でもあり,人類の記憶過程についての尽きなが興味をそそるのである。
Previous studies in transient global amnesia (TGA) were reviewed. In 1956 Bender described patients with a single episode of confusion with amnesia. Subsequently, in 1958 and 1964, Fisher and Adams reported patients with similar brief episodes of memory loss and used the term transient global amnesia. This disorder, also called "ictus amnesique"in 1956 by Guyotat and Courjon, is now quite well known. Patients with TGA demonstrate the following symptoms : the attack occurs during middle age, abrupt onset, preservation of self-identity and consciousness, normal immediate recall, transient inability to acquire new information, a relative loss of mem-ory for recent events, and a variable retrograde amnesia lasting from days to years. Others recognize the patient's behavior as abnormal.Restlessness, bewilderment, or quietness, unchar-acteristic of the patient's usual behavior, may be present. Most often the patient asks repeated questions about present and recent activities. There are no accompanying important neuro-logical abnormalities. Episodes of TGA seldom last more than one day. Attacks are most often single but may recur.
Copyright © 1988, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.