Japanese
English
特集 学習と記憶の神経機構
視覚系の可塑性
Plasticity in visual cortex.
外山 敬介
1
Keisuke TOYAMA
1
1東京大学医学部第一生理学教室
1Department of Physiology, Faculty of Medicine, University of Tokyo
pp.992-1000
発行日 1978年8月10日
Published Date 1978/8/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1431904989
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I.はじめに
視覚機能の形成に視覚体験が不可欠であることは,Senden(1932)により初めて指摘された。この結論は生まれつきの盲人が初めて視覚を得た時の体験から導かれたものである。この時生ずる最初の視覚は明暗の識別であり,ついで,色彩視が,そして最後に形態視が出現する。Hebb(1949)は,このように視覚機能の獲得に長い時間(数か月から1年)がかかることから,視覚機能が学習によって形成されると推論した。すなわち大脳の視覚領の細胞をつなぐシナプスには可塑性があり(Hebbのシナプス),視覚入力が繰り返し与えられるとこの可塑的なシナプス結合を修飾し,特定の視覚入力が特定の細胞集団を発火させるようになる。このような視覚入力と細胞集団の特異的な対応関係が視覚領で形成されることにより,最も基本的な形態視—視覚素(Perceptual elements)—が成立する。いかに単純な視覚といえどもこの視覚素に対応する神経回路が学習により構成されることが必要である。
このHebbの視覚機能の学習説はRiesen(1960)の視覚体験を奪われたサルの行動の観察によって,初めて実験的な証拠を与えられた。HubelとWiesel(1962)は視覚素の機能を,ネコの視覚領(17野)で細胞の反応としてとらえることに成功するや,Hebbの仮説の検定を1962〜1970にわたる一連の実験で試みた。
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