第4回神経病理懇話会抄録 シンポジウム
末梢神経
1.アクリル樹脂中毒による多発性神経炎の実験病理,他
猪狩 好令
1
1慶大神経科
pp.69-178
発行日 1964年1月15日
Published Date 1964/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1431902034
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最近合成樹脂工業の発展にともない,かかる職業に従事する者の中にかつて我々が経験したことのない新しい職業性集団中毒事故の発生をみる機会が多くなつた。このうちアクリルアマイド(以下ACAと略す)製造工場で,著明な神経症状ならびに軽度の肝機能障害を主とした集団中毒が発生した。ACAはアクリルニトリルより作られ,共重合線維の製造,表面被覆,接着,印刷,鉱山の汚水沈降剤,天然ゴムの質的改善,セメントの増乾など広汎な利用度をもつている。
ACAによる中毒はACA現場従業期間3ヵ月から1年で発病し,症状の発現は皮膚症状に始まり,次いで自覚症状,神経症状の順に進して行く。皮膚症状はACA接触部位の皮膚炎であり,手掌にもつとも多く見られ,次いで就業3〜4ヵ月で,足がだるい,立ちくらみ,手指がしびれる,全身倦怠,食欲不振等の自覚症状が出現する。続いて神経症状が出現し,これは本中毒の中核をなす症状であり,その主なものは知覚障害,腱反射の消失または滅弱,運動障害,筋萎縮,脳神経障害,自律神経系の障害ならびに神経症様の症状である。中でももつとも多く見られるものは知覚障害と腱反射異常であり,手掌や趾に冷感,しびれ感,蟻走感,寒冷時の疼痛,熱感など種々の言葉て表現される異常感覚があり,反面他覚的知覚鈍麻ないし知覚脱失は比較的少なかつた。
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