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はじめに
脊髄損傷によって対麻痺や四肢麻痺が起こるとの記載は古代エジプトのパピルス文書にさかのぼることができるという。脊髄損傷は,古くは落下,現在,先進国では交通災害やスポーツ事故が主な原因であるが,いずれにしても人類が始まって以来,その活動に伴う不可避的な産物として起こり続けてきたものであり,その悲惨な症状の救済は古くから人々の切実な関心事であった。そうした関心を背景として哺乳動物の中枢神経伝導路,とりわけ,脊髄伝導路が再生するか否かという問題は古くから研究されてきた。神経解剖学の巨星ラモニ・カハールはすでに一世紀近くも前に神経の変性と再生に関して詳細な研究を行い,この問題に対して否定的な解答を与えている。彼はその記念碑的な著書32)の中で結論的に以下のように述べている:「いったん発達が終われば,軸索や樹状突起の成長と再生の泉は枯れてしまって元に戻らない。成熟した脳では神経の経路は固定されていて変更不能である。あらゆるものは死ぬことはあっても再生することはない」と。このラモニ・カハールの仕事を源流として,彼に続く人達によって「哺乳動物の中枢神経伝導路は再生しないか,たとえ再生したとしてもきわめて微々たるもので機能的意義を有しない」と定式化され,これが通説として広く流布されてきた16,31,40)。しかし,これは本当ではない。
It has been widely held that the mammalian central nervous system (CNS) lacks regenerative capacity but that is not true. Studies over the past twenty years have provided convincing evidence for the occurrence of marked regeneration of mammalian CNS pathways and the formation of neural connections between the brain of host animals and grafted embryonic brain structures. Years of pessimism about the failure of regeneration of the mammalian CNS are consequently giving way to new optimism for repairing of injured brains and spinal cords.
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