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はじめに
近年,側頭葉内側部にある海馬体が記憶機能に重要な役割を果たしていることが明らかにされつつある。とくに,1957年のScovilleとMilnerによる健忘症患者H.M.の臨床神経心理学的研究に基づく側頭葉内側部と記憶機能に関する報告が転機となり,記憶機能における海馬体の役割が一躍注目されることになった。患者H.M.は,難治性てんかんの治療のため海馬体を含む側頭葉内側部を切除されたが,術後,Milnerの心理学的検査により重篤な記憶障害(新しい出来事を覚えることができない:前行健忘)のあることが明らかになった。しかし,重篤な記憶障害にもかかわらず,H.M.の人格,知覚,数字暗唱能力(短期記憶)および知能指数は正常であったので,記憶障害だけを呈する純粋記憶障害として注目された。そのためヒトの側頭葉内側部に関する研究の多くは,患者H.M.を用いたものである。最近では,このような患者H.M.の記憶障害を再現するため,動物モデルを用いて海馬体のより選択的な破壊実験が行われている。本稿では,まず大脳辺縁系(辺縁系)の解剖について概説し,ついで主としてサルの破壊実験の結果に基づき,記憶における海馬体の役割について述べてみたい。
The medial temporal lobe, including the amygdala (AM) and hippocampal formation (HF) , has been implicated in a various mnemonic and cognitive processes. In monkey and human, bilateral damage to the medial temporal lobe induces global amnesia, i. e., memory deficits extending to all sensory modalities. Anatomical evidence suggests that all sensory information converges on the medial temporal lobe, and mnemonic and cognitive functions of the medial temporal lobe may depend on such connec-tions.
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