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はじめに
破傷風毒素は,ボツリヌス毒素と並んでこれまで知られている最も強力な毒性物質であり,特異な神経毒素である。この毒素は,最も典型的な毒素性感染症の一つである破傷風(WHOの推定によると世界で年間100万人のヒトがこの病気で死んでいる)の病原因子であり,グラム陽性芽胞形成嫌気性桿菌である破傷風菌Clostridiumtetaniによって産生される蛋白毒素である。破傷風毒素は,近年,精製毒素を用いて機能上のdomain構造,抗原微細構造が明らかにされ,最近,その構造遺伝子のクローニングによって全一次構造が推定された。その結果,破傷風毒素は,その作用についてだけでなくdomain構造,一次構造についても,ボツリヌス毒素と著しい類似性をもつことがわかってきた。一方,破傷風発症機構についての近年の詳細な神経生理学的解析の結果から,その発症機構は,局所破傷風の特定の実験結果だけに基づいてこれまでよく教科書や総説に記述されていたような,破傷風すなわち「脊髄レベルでの脱抑制」といった単純なものではなく,破傷風毒素はその用量,投与経路,投与後の時間経過によって,その病態が著しく異なってくることがわかってきた。
これら種々の病態の根底にある破傷風毒素の作用機構は,本毒素が,神経シナプス前性に神経伝達物質(抑制性および興奮性)の放出を阻害することにあるという証拠が積み重ねられている。最近,破傷風毒素作用機構解析のためにin vitroの実験系としてウシ副腎髄質のクロマフィン細胞をdigitoninなどで透過性にした系が導入され,その解析が進んでいる。ここでは,最近の進歩を中心として述べる。これまでの経緯,詳細については,末尾の文献,これまでの総説24,62,105~107,110~117,120,155,166,168,175,179),それらの引用文献を参照されたい。
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