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遺伝型プリオン病に認められるプリオン蛋白変異が病気を惹起する機序は不明であるが,「変異がプリオン蛋白構造を不安定にすることにより,異常型プリオン蛋白への変換を促進する」との仮説が提唱された。組換えプリオン蛋白および培養細胞を用いて,変異がプリオン蛋白の構造安定性を含めた性状にどのような影響を及ぼすかが,現在研究されつつある。また,個体レベルでの影響を調べるために,変異プリオン蛋白をマウスで発現させることにより,遺伝型プリオン病のモデル作製が試みられた。Gerstmann-Sträussler-Scheinker病とextra octapeptide-repeats insertionによるプリオン病のモデルが作製され,神経変性の自然発生が認められた。前者ではプリオン蛋白アミロイド形成と海綿状変化,後者ではプリオン蛋白の脳内沈着も併せて認められた。しかし,これらのモデルでは異常型プリオン蛋白の自然発生は起こらなかった。
はじめに
ヒトのプリオン病のうち,孤発性のクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)やプリオン蛋白遺伝子の変異に伴って生じる遺伝型プリオン病[家族性CJD,Gerstmann-Sträussler-Scheinker病(GSS),致死性家族性不眠症(fatal familial insomnia:FFI)を含む]は,プリオンの体外からの侵入が関与せずに自然発生する病型である。これらの病型の大部分(家族性CJDとFFIの症例すべて,102番アミノ酸のprolineからleucineへの置換に伴うGSS P102L症例の一部)では,脳組織内に蛋白分解酵素耐性の異常型プリオン蛋白(PrPSc)が蓄積する。PrPScの蓄積は,中枢神経組織の正常な構成成分である正常型プリオン蛋白(PrP)が既存のPrPScと相互作用し,PrPScの力(鋳型様作用あるいはPrP構造変換酵素様作用)を借りて,正常構造をPrPSc型異常構造へと変化させることが連鎖反応的に繰り返されて生じる。上述の自然発生する病型において,この連鎖反応が始まるためには,個体内の(おそらくは中枢神経内の)少なくとも一つの細胞でPrPScが全く新たに自然発生する必要がある。一方,プリオン汚染したヒト成長ホルモン製剤投与や,ヒト乾燥硬膜移植21)などによって生じるCJD(医原性CJD),あるいは狂牛病プリオンに汚染した食物・食品の摂取で生じたと考えられる新変異型CJDは,PrPScが体外から侵入して起きる病型(感染型プリオン病)であり,中枢神経に侵入したPrPScが上述の連鎖反応を開始させると考えられる。
感染型プリオン病については,プリオンを実験動物に注射あるいは摂食させることによって,容易にその病態を再現することが可能であり,プリオン病研究のモデルとして古くから広く用いられている。一方,自然発生する病型については,その病態のkey eventである「PrPSc産生を伴うプリオンの自然発生」を動物で再現する方法がまだ開発されていないために,理想的な動物モデルが存在しない。
今後,プリオン自然発生のメカニズムを解き明かすこと,あるいはそのモデルを作製することができれば,プリオンおよびプリオン病に対するわれわれの理解が大きく深まるばかりでなく,プリオン自然発生過程の成立を妨げる技術の開発,すなわちヒト・プリオン病予防法の開発にも生かせるはずである。本稿では,プリオン蛋白の変異がプリオン病の発病機序に果たす役割に焦点を当てて,プリオン病の基礎研究を紹介する。
A variety of prion protein(PrP)mutations are known to be associated with human prion diseases. However, it remains to be determined how mutations cause illness. It was hypothesized that mutations destabilize PrP to facilitate its conversion to the pathogenic isoform, PrPSc. Studies with recombinant PrP or cultured cells are currently underway that address how mutations affect the physicochemical and biological properties of PrP.
To study the role of mutationsin vivo, models of inherited prion diseases have been made by over-expressing mutant PrPs in mice. In models of Gerstmann-Sträussler-Scheinker disease, spontaneous neurodegeneration was produced that features in PrP amyloid deposition and spongiform changes. In a model of prion disease caused by extra octapeptide repeats insertion, spontaneous neurodegeneration with PrP deposition in the brain was produced. However, none of the models produced the spontaneous generation of PrPSc.
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