ジェネラリストに必要な ご遺体の診断学・6
「眼」は亡くなってもモノを言う
森田 沙斗武
1
1大阪はびきの医療センター 臨床法制研究室
pp.1122-1125
発行日 2023年9月15日
Published Date 2023/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1429204466
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Case
患者:55歳、男性。会社員。息子と2人暮らし。
既往歴:特になし
現病歴:職場の健診で血圧が高いと指摘されるも放置していた。仕事はデスクワーク中心。喫煙20本/日。飲酒も多く、食生活も不規則であった。身長165 cm、体重85 kg、BMI 31.2と肥満体。息子は成人しており、関わりは浅かったが、本患者から体調不良の訴えは特になかったという。
某日22時頃、買ってきた焼肉弁当を食べながら飲酒している姿を息子が目撃。翌朝7時頃、本患者と台所で少し会話をしたあと、息子は出勤。同日20時頃に帰宅した息子が、スーツ姿で廊下に倒れている本患者を発見した。口から血性液を流しており、急いで救急要請するも、到着した救急隊員に、硬直があり不搬送と判断された。警察が現場検証を行い、事件性なしと判断。いつもは検案を担当する警察医が体調不良で入院中のため、地元医師会の紹介で当クリニックが死体検案書を書くことになった。
「口からの血性液」「飲酒量が多い」という事前情報から、肝硬変による上部消化管の静脈瘤破裂と考えていたが、実際にご遺体を診ると、眼瞼結膜に著明な溢血点を認め、顔面は真っ赤にうっ血しており、貧血とは程遠い印象であった。瞳孔にわずかな左右差があるように思ったが、そのほかに黄疸や腹水の所見もなく、これまで診てきた肝硬変患者とは違う印象だった。何か死因をつけなくてはならないが、どうしたらいいのか、途方に暮れてしまった。
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