特集 困っている“あなた”に届く 認知症診療
【認知症診療step by step】
非薬物療法の組み立て方—「薬の前にできることは?」
荻原 朋美
1
1信州大学医学部地域精神医療学講座
キーワード:
非薬物療法
,
パーソンセンタード・ケア
,
パーソンフッド
,
ニーズ
Keyword:
非薬物療法
,
パーソンセンタード・ケア
,
パーソンフッド
,
ニーズ
pp.1456-1459
発行日 2019年12月15日
Published Date 2019/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1429202393
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Case
患者:82歳、男性。
生活歴:音楽教師を定年まで務めた。退職後は、地域で音楽サークルや子どもたちの音楽活動の指導を、当科初診直前まで精力的に行っていた。
現病歴:当科初診の約1年前から、物忘れと易怒性の亢進を認めた。当科初診時のMMSE(Mini-Mental State Examination)は20点(時間見当識:-4点、場所見当識:-2点、遅延再生:-3点、図形:-1点)だった。認知症の精査および易怒性を中心としたBPSD(behavioral and psychological symptoms of dementia)のコントロール目的で当科入院となった。
当科病棟は小児から高齢者までの混成病棟であり、参加可能な全患者を対象に、音楽などのレクリエーションが行われていた。患者は、レクリエーションの時間や自由時間に、小児患者に対して持ち前の優しさのある関わりをしていた。傷つき体験を持つ小児たちは、患者からの「君はいい子だ」「こんなに上手にできてすばらしい」などの声掛けや、分け隔てなく穏やかに接してもらえることに、強い安心と信頼を寄せるようになった。これらの関わりの中で、患者の易怒性は認めなくなり、病棟で安定して過ごしていた。精査が終わり、精神状態も安定したため退院となった。退院当日は、小児患者たちが泣きながら患者を見送り、患者は子どもたちへの愛情を備えた笑顔で、一人ひとりと握手しながら、「君たちはいい子だから、頑張るんだぞ」と伝えていた。
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