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はじめに:美容師と医師は何が同じで、何が違うか?
私の実家は病院ではなく美容院であった。私は美容師の子供として幼少時代を過ごし、美容師としての母親の仕事ぶりを見ながら育った。私の実家は従業員が常に5人ほどいる結構規模の大きな美容院で、従業員は基本的に住み込みで働いていた。従業員のお姉さんたちは店長である母のことを「先生」と呼び、またお客さんたちも「先生」と呼んでいた。私は小学生の頃、よく小遣い稼ぎのために店でカットされた髪の毛を掃除したり、ロット(パーマの時に使用するプラスチックの器具)やタオルを洗ったりしながら、お客さんに対する母親の接し方を観察していた。当時の私(今もだが)には、母親のカットやブロウの技術がどれだけ高いか評価するすべを全く持たなかったが、母親は多くのお客さんから信頼されているようだった。
当時私の眼には、母親の美容師、そして美容院店長としての振る舞いには、反面教師的な部分も一部含めとても学ぶべきものがあった。店が休日の火曜には、毎週のように資生堂の講習会に行っていた。仕事中にお客さんに対して仏頂面になったことは一度もなかった。電話対応では1オクターブ声が高くなる。その一方で、パーマをかけに来たお客さんに対して「あんたにはパーマは似合わんからやめときなさい」とか、とんでもない意見をしていた。子供ながらに心配になった記憶がある。
自分の目の前のお客さん以外にも、店全体を見渡しながら、滞っているところがあれば的確な指示を出し、円滑な業務の進行を補完していた。閉店してからは、従業員の技術指導のため夜遅くまでマネキン(カットモデル)と格闘していた。従業員の恋愛事情やお金の使い方にもやたら首を突っ込んでいた。その一方で、会計事務はほぼ父親に任せており、経営(マーケティング)には口を出しても、財務(ファイナンス)には口を出さなかった。
私の「専門家」としてのロールモデルは明らかに母親である。「びよういん」で育ったことは、私の医師人生においてとても重要な意味を持っている。そして、美容師と医師はとても似ているところと、異なっているところがあるのだ。
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