ポートレイト
井村恒郎―脳と精神の架橋
佐藤 裕史
1
1慶應義塾大学医学部クリニカルリサーチセンター
pp.611-615
発行日 2014年5月1日
Published Date 2014/5/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1416101801
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
はじめに
井村恒郎(いむら・つねろう;1906-1981)は,戦後日本の精神医学の確立に貢献した指導者の1人である(Fig.1)。神経心理学,精神病理学,精神分析,精神療法など広範な領域にわたり堅実で独創的な研究を行い,熱心に診療に努め,次世代を育てた。21世紀の今の専門分野の極端な細分化からすれば,井村の学問を,医学の未分化な第二次大戦前後だったからこそあり得た大昔のディレッタンティズムだとする向きもあるかもしれない。しかし井村の責任感と決意,不断の研鑽と誠実な臨床こそが広大な知的山脈の縦走を可能にしたので,専門分化の果てに方向を見失い,患者の全人的苦悩の前に怯むわれわれにとって,この稀有な先達の足跡をたどる意義は大きい(なお昨今の病名改変前の引用が多く,旧称を用いることを諒とされたい)。
井村の業績は二次にわたる論文集1,2)に収められており(本稿で言及する井村の論文はすべて網羅されている),その人となりも成書3)と井村の高弟・野上芳美の紹介4-6)にある。筆者は直接井村の謦咳に接していないが,野上の教え子で井村の孫弟子にあたり,直弟子各位から耳にした井村の逸話は今も鮮やかである。業績と人柄,学風を祖述して学縁の記念としたい。
Copyright © 2014, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.