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はじめに
中枢神経系には血液脳関門(blood-brain barrier:BBB)と血液脳脊髄液関門(blood-cerebrospinal fluid barrier:BCSFB)が存在し,常にめまぐるしく変化している血流構成成分の中枢神経内侵入はここで阻止される。脳を保護する“壁”として機能するのがBBBに代表されるこの中枢神経バリアーシステムの第1の意義であり,防護壁としてのBBBの概念は既に20世紀の初頭にEhrlich1)や,その弟子のGoldmann2)らによって確立されていること,本誌の読者であればすでにご存知のことであろうと思う。しかし,彼らの発見から100年余りを経て,BBBの分子生物学の進歩とともにその概念は大きな変容を遂げた。
BBBは静的な“壁”ではなく,脳に必要な物質を能動的に取り込んで不要物質を瞬時に排泄する機能的なインターフェースであること,中枢神経系内での免疫制御の中心をなす構造物であることなどが近年の研究で次々に明らかにされている。BBB破綻を修復すること,さらに進んでBBB機能を人為的にコントロールすることは,多発性硬化症をはじめとする自己免疫性・炎症性中枢神経疾患だけでなく,アルツハイマー病,パーキンソン病などの神経変性疾患や脳血管障害,脳腫瘍を含めた広範な中枢神経疾患の新規治療法開発に直結する。
この序文の目的は,現時点でBBBを理解するうえで最低限必要な基本的知識を提示しておくことにある。なお,BBBは単なる障壁ではないことから,“barrier”という旧来からの呼称よりも“blood-brain interface(BBI)”という呼び名がより適切ではないかという主張がある。末梢神経系のバリアーである血液神経関門(blood-nerve barrier:BNB)に関しては,blood-nerve interface(BNI)という呼称を用いた論文も既に散見される。筆者はこの考え方に全面的に賛成であるが,BBIという術語はまだ広く浸透したものとはいえず,本稿では従来どおりBBBを血液脳関門の同義語として用いることをご容赦願いたい。
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